第三章
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「一体」
「わからないか」
「それはね、けれどね」
「それでもか」
「今はこうして懐いてくれているから」
だからだというのだ。
「私もね」
「嬉しいか」
「やっぱりね」
「それは何よりだ、しかしな」
「あなたはそのままね」
「俺は猫は嫌いだ」
だからだというのだ。
「それでだ」
「近寄ることもしないわね」
「絶対にな、お前が飼っていてな」
それでというのだ。
「俺はただ同じ家に住んでいる」
「それだけなのね」
「それだけだ、しかしな」
「しかし?」
「俺は前の飼い主とは違う」
プロ市民だった彼とはというのだ。
「絶対にいじめない」
「そのことはよね」
「何があってもだ、そしてな」
「お世話もなのね」
「そちらもだ」
「何があってもなのね」
「そうだ、お前が面倒を見ろ」
こう言うのだった、そうして一年程経ってだった。
妻が盲腸で入院することになった時夫は剣道八段の試験の時だった、だがこの時夫は入院の準備をする妻に言った。
「試験は来年だ」
「いいの?」
「いい、そして猫もな」
ナナもというのだ。
「安心しろ」
「武士達に預けてくれるのね」
「お前が気にすることじゃない」
「そうなの?」
「自衛隊にいた時は洗濯や掃除はしていたしな」
それを全て出来る様にするのも自衛隊の教育だ。
「飯も作れる」
「あなたそういうのも得意よね」
「だからだ、いいな」
「あなたのこともナナのこともなのね」
「安心してだ」
そうしてというのだ。
「行って来い」
「そうするわね」
妻は夫のことよりもナナのことが気になった、だが息子の家族の世話にならなくても今は猫のホテルもあるし夫は彼女をそこに預けるのだと考えた。
それで盲腸の手術を受けてだった。
入院したが退院してだった。
家に帰ると夫の傍にナナがいた。膝の上にはいなかったが。
傍にいて丸くなっていた、妻はその状況を見て驚きの声をあげた。
「まさか」
「ご飯と水をやってトイレの処理をしただけだ」
「あなたが世話していたの」
「だからそれだけだ」
ご飯と水とトイレのことだけだというのだ。
「他はだ」
「していないっていうの」
「それだけだ、何もしていない」
妻に不機嫌そうに答えた。
「俺はな」
「そう言うのね」
「だから何もしていない」
「それはしていたって言うけれど」
「俺がそう言っている」
だからだというのだ。
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