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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
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う。数秒後、芳醇な香りを漂わせる黒い液体をカップの中に注いで再びソファーに腰を下ろした雅貴は、まだ湯気を発しているその液体をゆっくりと、少量口に含み、爽やかな苦味が脳に未だに掛かっているもやを晴らしていくのをリアルタイムで実感していた。

 実際のところ、コーヒーに含まれる眠気覚まし成分であるカフェインがその効力を発揮し始めるのは摂取後20分ほどしてからになるのだが、それまで待たずとも、コーヒーが持つ爽やかな苦味と酸味によって十分に眠気を払ってくれると雅貴は感じていたし、雅貴が大のコーヒー好きである理由もそれだった。
 雅貴の仕事は脳をかなり酷使するものであり、特にホワイトハッカーとしての仕事中は、一瞬の気の緩みが命取りになる可能性がある。そしてその主な発生原因である睡魔を退治してくれるコーヒーは、雅貴にとって欠かせないものだった。

 今回も頭を冴え渡らせてくれたコーヒーを飲み干し、コップをシンクへと置いた雅貴は、コンピューターの前の椅子に腰掛けると、昨日茅場から送られてきた二つの機器(パーティーチケット)を引き出しから取り出し、ナーヴギアを頭にかぶり、ソフトをセットしてバイザーに表示された時計と睨めっこを開始した。そして時計が13時を示す直前、雅貴はもう一度椅子に深く腰掛け、椅子をリクライニングモードに入れる。背もたれと足置きがフラットになり、雅貴が位置を微調整するのと同時に時計が13時を告げると、その瞬間、日本中で発せられたであろう一つの単語を雅貴も紡いだ。

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 すると、今まで網膜に映し出されていたオフホワイトの天井が闇に包まれ、次いで様々な色の光の粒が視界を染める。そしてそれが通り過ぎると、恐らくは様々なデータがやり取りされているのだろう、幾つかの円形チャートの中にパーセンテージが表示され、やがてそれらが全て“OK”に切り変わり消えたかと思うと、言語選択のウインドウが出てきて、その後今度はログイン画面が姿を現した。そして雅貴がいつもプライベートで使用しているIDとパスワードを入力すると、アバター製作の作業に入る。雅貴は特にこだわりを持っていなかったため、プレイヤーネームは《Masaki》とし、見た目も適当に作り終える。と、ようやく全ての作業が終わったのか、“Welcome to Sword Art Online!”という文字が画面上に躍り出て、それと同時に雅貴の視界が黒に染まり、突如発生した浮遊感が雅貴を襲った。
(さて、それじゃあ異世界見物でも始めますか)
暗黒の世界を落下しながら、雅貴は口元を獰猛な形に歪めたのだった。


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