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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第58話 エル=ファシル星域会戦 その2
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取り掛かれ」

 爺様の指示に、俺はすぐ自分の席にかぶりつくと、端末を起動させて艦隊運動シミュレーターに自分の『勘』と『狙い』を打ち込んでいく。前衛部隊だけでなく敵の中央・後衛部隊を前に吸い出す為に必要な後退距離。それに伴い反撃時に突撃しやすくする為、直属の分艦隊に指示すべき効率的な後退ルート。さらに四つの隷下独立部隊の後退と逆進のルート。爺様が決める反撃のタイミングに各独立部隊が動きやすいよう、旗艦エル・トレメンドを中核座標とした軌道をそれぞれに算出。それに合わせて第八七〇九哨戒隊に与える別任務と後方部隊の避難経路と半包囲からの追撃戦の戦闘評価を乗せて、一四分と三五秒。指と視力の限界点で、それを作り上げ、まずはモンシャルマン参謀長、そして爺様に提出する。

「よくやったジュニア。これでよい」
 爺様は出来上がったばかりのシミュレーションを見て即断した。
「すぐに各部隊の指揮官に伝達せよ。前進と後退、それに『折り返し』のタイミングは、旗艦エル・トレメンドよりの信号とする」
「は、了解しました」

 爺様の手からシミュレーションのデータが入ったメモリを受け取ると、ファイフェルが司令部専属のオペレーターへと駆け出していく。モンシャルマン参謀長は現時点の被害状況と戦況の再確認。モンティージャ中佐は敵を困惑させるための偽装『後退』命令の作成と発信。カステル中佐は戦闘後に推測される敵味方の被害状況と捕虜の管理について、俺に向かって小さく眉を潜めた視線を送った後に各部署へと指示を出す。

 一気に動き出した第四四高速機動集団司令部に、俺は大きく溜息をついた後で、司令艦橋の装甲壁に背中を預けた。サブスクリーンの一つが参謀長の指示によって擬似的な戦況投影シミュレーションとなり、前世でよく見た赤と青の立方体による俯瞰図に代わる。爺様の司令が各部隊に伝わったのか、赤い鶴翼はゆっくりとバラけるように後退し、青い台形錐はそれに合わせて前進を開始する。

 そして爺様は俺のシミュレーションよりも巧妙に前進と後退を指示する。敵が罠かなと考え前進速度を落とせば、幾つかの小戦隊に銘じてその鼻先へ砲火を集中させて挑発しつつ前進し、敵がそれを潰そうと前進してくれば、第四四高速機動集団全体を後退させる。絶妙な往復指示を繰り返していくうちに、第四四高速機動集団と他の四つの独立部隊の距離はじわじわと離れていく。それに合わせて帝国軍の艦列は台形錐から複数の突出をもつ奇妙な長方体へと変化した。それは頭が大きく尾っぽが小さい、オタマジャクシというよりはオオサンショウウオのような形になり……〇七〇六時、爺様は全部隊に総反撃の指示を下した。

 その動きは擬似的なシミュレーションではまさに予想したものそのものであったが、実際にメインスクリーンに映し出されたビームの閃光と帝国艦隊に
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