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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第58話 エル=ファシル星域会戦 その2
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秀才はいる。

 ゆえに戦線がこの状態を維持した場合、帝国軍が仮に玉砕するまで戦闘を続けたとすると、同盟軍は約二〇時間後に約二〇〇〇隻の残存艦艇を有している、と計算できる。だが帝国軍も当然その程度のことは理解している……はずだ。

「ゆえに敵はそう遠くないうちに、帝国軍は何らかの戦術的な行動変化を起こすものと推測されます」
 俺がそう掻い摘んで説明すると、モンシャルマン参謀長は「ほぅ」と感嘆したような声を上げ、ファイフェルはなにか珍獣でも見るかのような視線を俺に向け、爺様は腕を組んで小さく頷いた。司令部のそんな沈黙は、ものの数秒で爺様によって打ち破られる。
「では、貴官が敵の指揮官であるとして、今後どのような行動をするか?」
「小官でしたら数時間後と言わず即座に『紡錘陣形を形成し敵陣中央突破』を試みます」
「なるほど。それが正解じゃろうな」

 爺様はそう頷くが、俺の答えに納得していないのは明らかだ。学校を卒業したまともな士官ならば誰でも出せる答えであるのに、現実の敵は中央突破を試みることなく漫然とした防御態勢のまま正面砲戦を続けているのは何故か。

「敵が急進的な行動をとらない理由はいくつか考えられます」
「言ってみたまえ」
 正面を見たまま微動だにしない爺様ではなくモンシャルマン参謀長が俺に聞いてきた。俺はそれに対し、一度自分の背中側に座って情報解析を行っているモンティージャ中佐に視線を送った後で説明する。
「一つめは既に大規模な増援部隊が救援に向かっている。二つめはこの星系を死守せよという命令が上層部より出ている。三つめはあまり申し上げたくないですが……帝国側の部隊にその能力が備わっていない為、であります」

 大規模な増援部隊が既に後方の星系を進発しているのであれば、自己の戦力を短時間で喪失するような積極的な行動は控えようとするだろう。今のところ通信封止を解除し各跳躍宙点の監視へと分散した第八七〇九哨戒隊からの緊急連絡はないので、かなり時間に余裕のある話だ。フェザーンからの情報(という名の駐在武官の分析)が正しいのであれば、あと八〇〇隻ないし一〇〇〇隻の戦力が他に存在するかもしれないが、たとえ存在しても戦力としては既に時間的に意味がない。

 帝国側の上層部が死守を命じているのは充分ありうる。せっかく一〇ケ月前に獲得した居住可能な有人惑星だ。しかも最前線である。ここに大規模な根拠地ができれば、『辺境の叛徒共』の領域を制圧するのに極めて有用となることは疑いない。そう考えて資材と設営部隊が届くまで、配置可能な警備艦隊には死守をせよという命令は人道性云々を別にすれば正しい。命令が死守である以上、数的不利な状況で冒険的な攻勢は控えるというのは理解できる。

 第三の理由。これは理屈ではなく推測になるが、同盟軍がこの星
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