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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第57話 エル=ファシル星域会戦 その1
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ている状況からの送信と推定される、そうです」
「……かえって不気味だな」

 攻略部隊が星系に存在していることは、外縁部跳躍宙点で観測衛星が撃破されたことで十分認識しているだろう。にも拘わらず仮に部隊を集結させるにしても、敵の索敵艦を触接できる距離に招き込み、妨害もせずにいるというのはどう考えても常識外だ。むしろエル・セラトが帝国軍に拿捕され、その通信機器を利用して偽情報を送り込んできていることすら疑わせる。

「まぁいいじゃろう。ここはエル・セラトにとっては遊び慣れた庭のようなものじゃし、帝国軍にとってみれば一〇ヶ月前に拾ったばかりのお化け屋敷じゃ」
「……よろしいので?」
 言外に罠の可能性、追加の索敵艦派遣の有無を確認するモンシャルマン参謀長に、爺様は小さく頷いて善処不要と伝えると、俺を見て言った。
「敵艦隊迄の距離はどれほどじゃ?」
「このままなにもなければ六時間後です」
 既に敵艦隊と戦うことを第一目標とし、把握している敵戦力が事前の情報とほとんど差異がない以上、爺様が必要としている情報は『時間』であろう。果たしてその通りであって、俺の答えに爺様は満足げに頷いた。
「部隊最後尾のアップルトンに、部隊後方半球範囲の索敵を命じよう。巡航艦小隊を一つばかり割いてくれと伝えてくれ。それ以外の麾下全部隊の将兵に一時間半の二交代で休養をとらせろ。人生最後になるかもしれんのじゃから、みんなせいぜい美味いものを食べるんじゃぞ」
「それでは当司令部が随分と虫がいい話になりますな」
 思わず俺は爺様に軽口を叩くと、爺様はギロッと大きな目で俺を一度睨んだ後、ファイフェルを手招きして言った。
「ブライトウェル嬢ちゃんに、嬢ちゃんの分も含めて六人分の食事を用意するよう伝えてくれんかの。たしかジャンバラヤと言ったかな。嬢ちゃんの得意料理」
「? 失礼ながら閣下、七人分では?」
 糞真面目に応えたファイフェルに、爺様はウィンクして応えた
「ココに一匹、口賢しい鼠を置いておくからそれでいいんじゃよ。参謀長、鼠の餌には何がいいかの?」
「まぁ普通はパンとチーズでしょうが、初陣の鼠ならパセリで十分でしょう」
 そういうモンシャルマン参謀長の顔はすでに緩んでいた。
「だそうじゃ。ボロディン少佐。他の哨戒艦から連絡が届いたら、居眠りなどしとらんですぐに会議室に連絡するんじゃぞ。わかったな?」
 そう言うと爺様は笑いながら司令席から立ち上がりポンポンと俺の肩を叩くと、もう肩を揺らして笑いを隠さない参謀長や中佐達を引き連れ司令艦橋後方のエレベータへと消えていった。

 二時間後。このままほっておけば後で俺から報復されることに感づいたファイフェルが、士官食堂のトレーに少量のジャンバラヤと山盛りのバターロールとチーズとポテトサラダを乗せて持ってきてく
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