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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第55話 出動
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る恐怖』を俺はようやく感じることができたが……

「ボロディン少佐殿、出発のお時間です」

 俺の背後五メートル辺りから掛けられた声に振り向くと、一分の隙もない敬礼姿で立っているブライトウェル……兵長待遇軍属が立っていた。司令部の従卒である以上、司令部が戦場に出るのであれば軍属とはいえそれに同行する義務がある。だがアントニナと同い年の彼女を戦場に出すべきかどうか。実のところ司令部の面々がいろいろな抜け道を考えて止めさせようとしたにもかかわらず、彼女の意志は従軍を『切望』するであり、結局爺様としてもその意思を拒否することはできなかった。そして彼女は自分の貯金の半分を残る母親に、もう半分を食材の購入に使い果たしてここにいる。

「わかった。すぐ行く」
 俺が振り返って彼女に敬礼すると、逆に俺の背中から聞きなれた叫び声を浴びせられた。
「ちょっとヴィク兄ちゃん! 誰、その女!」
「聞いてません! 説明を求めます!」

 真っ赤な怒り顔でフェンスを越えようとするアントニナと、そのベルトを掴みながらもこちらに視線を向けるイロナ。その横で笑っているラリサと、事態に呆然としているレーナ叔母さん。ブライトウェル嬢がどういう素性か知っているグレゴリー叔父が、ボロディン家の女性陣に見えないように『早く行け』と太腿の横で手振りしている。俺がそれに従って小さく背中越しに右手を振ると、どうやら待っていたらしいブライトウェル嬢がはじめて見せる意地悪そうな視線を向けて言った。

「ここで少佐殿の右手に小官の左手を重ねたら、どうなりますでしょうか?」
「ボロディン家に俺が帰れなくなるからそれは絶対に止めてくれ」
「では、そのように」

 そう言ってブライトウェル嬢が俺の右腕に体を寄せようとしてきたので慌てて右手で彼女の左肩を抑えると、さらに背後の(というかアントニナとイロナの)声が大きくなり、それに流されるように事態を見ていた周囲の笑い声が重なり、出征の見送りがなんとも締まらないドタバタコメディの有様になってしまった。

 そして司令部のシャトルに乗るまでそう大して距離はなかったにもかかわらず、シャトルに向かう第四四機動集団の将兵達からは、俺とブライトウェル嬢に向けて好奇とからかいと微妙な嫉妬の視線が浴びせられた。が、その顔からは不思議と不満が消えていたようにも見えたのだった。





 そんな見送りから一三日後、第四四高速機動集団と独立部隊は各個ランテマリオ星域からマル・アデッタ星域に進入し、主恒星系たるマル・アデッタ星系の外縁部にて集結を果たした。恒星風とエネルギー流が無秩序に荒れ狂う、巨大な三重の小惑星帯がある実に不安定な星系。この手前で集結しなければ、寄せ集めの出来合い集団などでは迷子が続出することになるのが疑いないからだ。

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