鷲尾須美は勇者である 再臨の章
プロローグ
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。神樹様に選ばれ、既に大赦の伝統ある家に養子に行くことは決まっている。家柄で言えば犬吠埼家は遠く及ばないのだからこの決定はどう足掻いても変えられない。そして勇者としてのお役目は、大赦に所属する者ならば誰もが知る最重要案件。そして、聖剣に選ばれるという異常事態。勇者になって貰わねば、聖剣を手に取って戦って貰わねば世界が滅ぶのだ。例えそれが、いつか終わりを告げるかりそめの平和だとしても。
「じゃあ・・・行ってくるね。」
使者が来訪してから数日、犬吠埼家全員が家の前に集まっていた。
弟が、兄が行ってしまう。連れ去られてしまう。訳の分からぬうちに、自分達の前から。もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。そう思うと、姉妹から自然と涙があふれてきた。
視界がにじむ。ああ、だめだ。せめて心配しないように泣かないで送ろうと、姉と、妹と決めたのにーーーーー
ふいに二人が抱きしめられる。蓮だ。
「ごめんね・・・姉さん、樹」
ギリギリだった涙がたまらずこぼれだす。もうダメだ。耐えられない。
「ふっ・・・ぐぅっ・・・れんん・・・」
「姉さん・・・僕がいないからって樹とケンカしちゃ・・・ダメだよ?」
「わかっ、ひっ、てるわよぉ・・・」
「おに、ひっ・・・お兄ちゃ・・・」
「樹、しばらく帰れなくなるけど・・・姉さんと仲良く・・・ね?」
「わかっ、ったよぉ・・・」
嗚咽交じりに返事をする。抱きしめられているので顔は見えないが、蓮の声も、身体も震えていた。
両親はすまないと、ごめんなさいと、泣きながら三人を抱きしめ、謝った。自分達の無力さを感じながら、力いっぱい抱きしめた。
そして、無情にも別れの時間がやって来た。
「じゃあ、行ってきます」
そう言って蓮は大赦から来た高級車に乗って去っていった。家族はその車が見えなくなるまで見送り・・・見えなくなった所で家族は泣き崩れ、抱きしめあった。せめて、生きて帰って来てくれ。と祈りながら・・・
もしこれが藤森、高嶋といった名家ならば、諸手を振って喜んだのだろう。神樹様に選ばれたのだと。喜ばしいことだ、と。
だが犬吠埼家は大赦に所属していたとはいえ普通の家庭だった。自分達の子供が選ばれるなんて想像もしていなかったし、あまりにも唐突過ぎた。喜びなどありはしなかった。あるのはただの悲しみだけだった。
それは蓮にも言えることだった。大赦へと向かう車の中で蓮も泣いていた。声は上げなかったが、泣いていた。
正直言って、お役目も、聖剣も蓮にはどうでもよかった。ただ、家族と一緒にいられればそれでよかった。
だがーーーー
『勇者
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