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レーヴァティン
第百八十三話 自害その五
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 領主の間に入った、するとそこに領主はいた。痩せた面長の顔で黒く青々とさえした髭を持ち中背で痩身の男だった。
 領主は質素な服を着て己の席に座っていた、久志はすぐにその彼を見たが。
 見れば血走った目は虚ろだ、口も開いたまま動かない。傍にあるワインのボトルとグラスを見て全てを察した。
「自分からか」
「死を選びましたね」
 源三が応えた。
「そうしましたね」
「そうだな」
「敵に処刑されるよりはですね」
「自分で終わらせたんだな」
「左様ですね」
「確かにとんでもない奴だったけれどな」
 病的なまでに残虐で殺戮を好んだがというのだ。
「それでもな」
「誇りはありましたね」
「そのことは事実だな、それにな」
 久志は領主の服と部屋の中を見回してこうも言った。
「質素だな」
「贅沢もしませんでしたね」
「重税を課してもな」 
 民達にだ。
「それでもな」
「それはあくまで国の為で」
「それでな」
「自分も贅沢はしていませんでしたね」
「それは見事だな」
 認めるべきだというのだ。
「本当にな」
「全くですね」
「だからな」
 それでとだ、久志はさらに話した。
「ちゃんと弔ってやるか」
「敬意を以て」
「死体は責めないでな」
「丁重に葬る」
「墓も建ててやる、確かにとんでもない奴だったが」
 血を好む残虐な者だったがというのだ。
「いいところもあったからな」
「そうしますね」
「ああ、そうしてやるな」
 こう言ってだった、久志は領主を丁重に葬り跡継ぎは彼の長男にさせた。その長男は温厚でかつそれなりの能力があったので為政者として問題はなかった。そして最後まで戦った将兵や家臣達も久志は蘇らせたり手当をさせて新しい領主に仕えさせた。
 その全てが終わってから彼は兵をブダペストに向かわせることにした、それで出発する時に夕子に言われた。
「最後まで領主に忠誠を尽した人達も」
「ああ、俺達に降ったな」
「そうなりましたね」
「あれだ、領主をちゃんと葬ってな」
「領主の血筋の方を後継者にしたので」
「連中も従ったんだよ」
「そうですね、礼儀と筋を通せば」
 それでとだ、夕子は述べた。
「殆どの人は従いますね」
「納得してな、ただな」
「ただといいますと」
「いや、残虐な奴だったけれどな」
 久志はその領主のことをさらに話した。
「それでもな」
「見るべきところはありましたね」
「ああ、祖国愛が強くて私心はない」
「それは長所でしたね」
「そう思ったよ、世の中そんな奴もいるんだな」
「そうですね、用いることは出来ませんでしたが」
「長所と短所の差が激しいか」
 久志は夕子に考える顔で述べた。
「世の中そんな奴もいるか」
「そうなりますね」
「ああ、けれ
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