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王になれない男
第四章
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「だからこうなった、自業自得だ」
「左様ですか」
「このこともですか」
「自業自得ですか」
「そうなのですか」
「そうだ、私に仇為す者は全てこうなるのだ」
 高らかに笑って言った、そうしてだった。
 イアソンは王位に就こうとしたがそれは国の殆どの者に拒まれた、そうしてイアソンは逆に国を追われることになった。
 その話を聞いてだった、オルフェウスは周りの者達に話した。
「さもありなんだ」
「イアソン殿が王になれなかったことは」
「そのことはですか」
「当然のことですか」
「彼は確かに英雄でありだ」
 まるで女と見紛うばかりの整った顔で言う、身体つきも優しい感じで金髪も豊かでやはり女の様である。
「私達をまとめ導ける」
「実に素晴らしい方ですね」
「そのご気質も」
「英雄の将だ、ああした人は他にはいない」
 まずはイアソンをこう讃えた、それからこう言うのだった。
「だがそれでも王にはな」
「なれない」
「そうした方なのですね」
「それはあの残虐さからだ」
 この気質故にというのだ。
「あの方は王になれないと前にカストルとポルックスに言ったが」
「今もですね」
「そう言われますね」
「その様に」
「そうだ、あの方は恨みを忘れずだ」
 そしてというのだ。
「その仕返しはああしてだ」
「極めて惨い」
「そうした方なので」
「だからですね」
「メディア殿の言われたことでもそれをよしとされ」
 そのうえでというのだ。
「平然として嗤っておられる」
「そうした残虐な方だからこそ」
「それで、ですか」
「あの方は王にはなれない」
「そうなのですね」
「そうだ、あの人はあまりにも残虐だからな」
 それ故にというのだ。
「王にはなれなかったのだ」
「あまりにも惨いとですね」
「何時自分もそうされるかわかりませんからね」
「恨みを持たれては」
「そうなれば」
「そうだ、王は時として恨みを忘れないとならない」
 そうしたことも必要だというのだ。
「だがあの方は恨みを忘れない」
「そして惨い仕返しをする」
「そうした人に王になって欲しくない」
「そういうことですね」
「その通りだ」
 まさにと言ってだ、そうしてだった。
 オルフェウスは竪琴を奏でた、その奏では美しいが何処か遠いものを見るものだった。その奏でる顔も遠くを見て何処か悲し気なものだった。
 そしてこう言うのだった。
「素晴らしき英雄でよき導き手で他にいない友だが」
「それでもですか」
「王にはなれない」
「そうした方なのですね」
「そういうことだ」
 こう言ってだ、彼は音楽を奏で続けた。その遠くを見て悲し気なものになるその音楽をそうしたのだった。


王になれない男   完


    
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