暁 〜小説投稿サイト〜
緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
幽香、前梅雨に香る
[3/3]
[8]
前話
[9]
前
最初
[1]
後書き
[2]
次話
と慇懃に頭を下げた。前髪に隠れる寸前の白雪の目は、心做しか笑っているように、キンジには思えた。
「そう、か……」
今まで胸の内に燻っていた靄は、同じものだったのかもしれない──そうキンジは思い至った。《魔剣》と相対していた時に見付けたあの怨嗟という感情が、靄の原因だったのだろう。
白雪を傷付けたことに関する、怒り怨み。果たしてそれが彼女だけに向けられたものであるのかと自問すると、自分にも向けられたものに相違ないと自答した。
そうして、白雪の言葉を反芻した。それが不思議なくらいに自分の荒んだ胸の内に浸透していって、見る間に治癒していく。
これは愛情とはまた違った、慈愛めいたもの。自分にも存在価値があるんだということを、真っ向から肯定してくれたもの。
この言葉は、星伽白雪しか言い得ない。まさに唯一無二だ。そう自覚した途端に、何故だか笑みが込み上げてくる。
「何だか説法で救われた気分だ」
「説法だなんて、そんな……畏れ多い……。うふふ……」
照れ隠しに手を振って否定する素振りを見せながら、白雪もつられて笑みを零した。自分のちっぽけな言葉でさえ人を救えるのなら本望だ──ましてやそれが恋慕している幼馴染なら──と思いながら、2人で顔を見合わせていた。
「本当は、かなり気に病んでた。でもお前がこう言ってくれて少し安心した。ありがとな。もうこの事は気にしない。事件も一段落着いたことだし、反省するところは反省して前を向く。それでいいんだろ? 俺にとっても、白雪にとっても」
「うん……、うんっ。そうだねっ!」
ご機嫌そうに何度も頷く白雪を見ながら、これで良かったんだな──とキンジは安堵した。憂慮があるとすれば親友の安否だが、彩斗なら大丈夫だろう、と即座に結論を下す。キンジが小耳に挟んだ限り、どうやらアリアがずっと付きっきりのようで、改めてあの2人の関係の深さを思い知らされた。
……ふと、葛西臨海公園で花火をした日のことを思い出した。
『……あと。あと、1つだけ。お願いしても、いいですか?』
この時の幼馴染の声は、震えていたように記憶している。
『……これからも──私だけを、見ていてください』
あの時は、これが意味するものは1つだけだと思っていた。いま思えばそれは、迫り来る《魔剣》の恐怖に耐えかねた、星伽白雪という小鳥が零した本音でもあったのかもしれない。
《魔剣》無き今は、果たして自分に何が出来るだろうか。それでも、白雪のあの言葉に応えてやることくらいは出来るはずだ。
気恥しさを堪えながら、目の前に座る彼女を見遣る。
「だから、これからは──お前のことだけ見ててやる」
前梅雨とも潮風とも違う幽香が、頬を擽っていった。
[8]
前話
[9]
前
最初
[1]
後書き
[2]
次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]
違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
しおりを解除
[7]
小説案内ページ
[0]
目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約
/
プライバシーポリシー
利用マニュアル
/
ヘルプ
/
ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ