第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
005 勝負事にこそ勝て
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ドボーン艦隊と相対し、後退を続けている。射程範囲ぎりぎり、ワイドボーンの攻撃が届きそうで届かないようなそのような距離を??。
その時、ワイドボーン艦隊に押されたようにヤン艦隊の陣形が凹形になった。
しかし、それは??。
「バカか、おまえら」
その時のフロルの表情は、なんとも呆れた顔だった。いや、その表情の中に微かな怒りがあることに気付いたのは、ラップだった。
「いいか、好戦的な敵に対する時、こちらも好戦的になる必要はない。臆病な相手に対する時、こちらも臆病になる必要はない。必要なのは、相手を見極め、相手の考えを読んで戦うことだ。古代地球の軍師は言った。『敵を知り、己を知れば、百戦危うべからず』ってな」
まさにその時、ワイドボーンの操作していた端末に<艦隊攻性運動限界>のエラーが表示された。
そしてそれが、先ほどまで凹型になっていたヤン艦隊の、反撃の合図であった。
凹陣形が半包囲殲滅戦への迅速な移行を可能にする。
まるで、それが始めから仕組まれていたかのように。
皆が絶句していた。フロルは腕を組んで、ディスプレイから視線を外した。
「防御に徹する敵には、戦略的無意味な消耗戦を仕掛けず、その防御を崩す一点に全兵力を注ぎ込む。こちらを殲滅させようと包囲網を試みる敵には、それが出来上がる前に敵と交戦し、それを突破する。そして、だ??」
そして、コンピュータが勝利判定の電子音を発した。
<判定:勝利者、ヤン・ウェンリー>
「補給線を断ち、短期決戦に持ち込もうとする敵を誘導し、弾とエネルギーを浪費させ、その限界点を待ち、その瞬間に叩き潰す。ヤンは攻勢が上手くいっていると思わせて、半包囲殲滅戦のための凹陣形を、攻め込まれただけの凹陣形と勘違いさせたというわけだ。理想的な半包囲だ。ワイドボーンに撤退する余裕すら与えない」
シトレもまた、まさかという答えに驚いていた。視線をフロルから、ヤンに向け直す。だがどう見ても、あまりにも軍人には見えないこの青年が、まさかここまでの戦術を見せるとは思えなかった。
最終的に、ワイドボーンの艦隊は2割まで数を撃ち減らされていた。ヤンの艦隊は9割弱である。
圧勝であった。
2年生は誰もが驚きを隠せない表情で観戦室を去って行った。先ほどフロルに反論した一団は、特に気まずそうな顔をして。ラップはヤンを出迎えに行き、無理矢理ハイタッチを交わしている。シトレもまた、まるで何か面白いものを見つけたような顔で一人考え込んでいた。
そんな中、フロルは茫然自失としたワイドボーンに近づいて、何かを語ったという。この時、フロルが何を話したか、それは定かではない。だがワイドボーンに心境の変化があったのは確かである。そのあとのワイドボーンには、慎ましさという何より
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