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銀河英雄伝説 異伝、フロル・リシャール
第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
005 勝負事にこそ勝て
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はないのかもしれないが。
 フロルが梃子入れするからには、ヤンに目標とさせたのは()()である。

「ま、面白い奴ですよ。ヤンは誰よりも戦争とか人殺しのような愚行を嫌う男です。元は歴史家になりたかったとか。ですが、なかなかどうして戦争やらせれば上手くやるタイプですよ、あれは。そもそも、優等生を鼻にかけ、肩で風切って歩いてるワイドボーンに将器があるとは思えません」
「将器、将としての器か」
「校長もここを勤め上げたら、また出世街道に戻るんですよね。ヤンには、目をかけていただきたいですね。あれは、化けますよ」
 シトレはまるで他人事のように話すフロルの横顔を見ると、小さく笑いを零した。まるで自分は関係ないという顔で、そういうことを言うフロルが面白かったのだ。
「儂はなんやかんやでリシャール候補生も勝っているんだがな」
「買いかぶりです。俺なんて、二流もいいところでしょう。磨いても、一流にはなれるかどうか」
 その言葉に笑ったのはまたしてもシトレであった。昨年彼に敗れ、準優勝に終わった首席の優等生が聞けば、泣いて悔しがるであろう。

 だが、フロルはまったく、一片の疑いもなく、自分が二流であることを理解していた。戦術、戦略、軍略というものをどれだけ学んだとしても、自分は一流になれても、ヤンやラップを越えることはできないだろう。自分は未来を知っている。それがアドバンテージだ。だが、ヤンやラインハルトといった天才たちとは、彼らの才能とは谷よりも深く隔絶した差があるのだ。超一流と一流の差は、小さいようでいて、大きすぎる違いがある。
 


 二時間が経ったところで、勝利を決めたジャン・ロベール・ラップが観戦室の方にやってきた。ヤンの試合に注目していたとは言え、フロルはちらちらとラップの試合も見ていた。まったく危なげのない試合で、ラップとしては不完全燃焼もいいところだろう。ラップもまた、用兵家としての資質や才能に溢れた人間の一人であった。ヤンには劣っても、並以上は確実である。
 シトレ校長と二言三言話したラップもまた、シトレに気に入られたようであった。

「で、どうです、リシャール先輩。ヤンは踏ん張ってますか?」
「ああ、さすがだよ」

 観戦室にはラップのように自分の試験が終わった生徒が続々と集まりつつあった。彼らは勝ったにしろ、負けたにしろ、自分の学友たちの試合に興味があるようだった。そして皆が皆、早々に決着が着くと思われていた試合が、まったく違う展開を見せていることに、戸惑いを隠せないようだった。

「試合開始と同時に、陽動部隊と本体に分け、ECM(電子対抗手段)出力最大で、擬似的な遭遇戦を作り出した。作られた遭遇戦によってワイドボーンはヤンの陽動部隊につり出され、それ以外のすべての兵力を集結したヤンによっ
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