自由惑星同盟、アーサー・リンチ少将
謝罪の影響
[8]前話
ヤン少佐に謝罪の際、リンチ少将は言葉を継いだ。
「私には到底、思い付けない。
君は何故、冷静に対処できたのかね?」
英雄に見えない青年が首を捻り、髪を掻く。
「失敗して当然、と思われたからでしょうか。
誰も期待しなかった御蔭で重圧、責任感を免れた点は大きいです」
「エネルギー中和磁場を展開せず、隕石群を装う脱出案も見事だ。
素晴らしい発想だが、どうやって培ったのだろう?」
21歳の青年は、追撃を予想していなかったらしい。
困惑の表情が漂い、慎重に言葉を選ぶ。
「低速で無防備の輸送船が無事、逃げる為には戦わない必要がありました。
古代地球史には撤退、逃走の実例が数多く見受けられます。
成功例の大半は敵の思い込み、常識を利用していました。
帝国軍の盲点、と考えた時イオン・ファゼカス号の故事を思い出したのです。
ドライアイス鉱床の荒削り、防御力場も無い塊は帝国軍に発見されていません。
先人の知恵に倣った御蔭で、助かりました」
エル・ファシルの敗将が頭を振り、溜息を吐く。
「『能ある鷹は爪を隠す』、かね?
君は『人は外見に拠らぬ』の典型だな、アッシュビー提督の再来かもしれん。
失礼な事を言ってしまった、誠に申し訳ない」
元上司は頭を下げ、青年の表情が和む。
「どうか、気になさらないでください。
私は歴史に興味がありまして、戦史研究科配属を望んでいました。
よろしければ、閣下の許で微力を尽くします」
リンチ少将は眼を瞠り、再び溜息を吐いた。
「残念だが、艦隊を指揮する機会は無いだろう。
とんでもない醜態を曝した者には閑職、後方勤務が待っている。
良くて情報部、或いは捕虜収容所勤務かもしれんな」
黒い瞳が泳ぎ、無意識に髪を掻き毟る。
「私は惑星エコニア勤務を命じられましたが、お陰で興味深い人物と逢いました。
アッシュビー提督の謀殺説に関する情報も得られまして、感謝しています」
宇宙暦789年2月14日、エル・ファシルの敗将に捕虜収容所勤務の命令が届いた。
ドワイト・グリーンヒル中将は事務出納能力に優れ、後輩の面倒見も良い。
士官学校二期先輩の援護で要望は通り、プレスブルク中尉が面会室に現れる。
「私は元エル・ファシル星系警備艦隊司令官、アーサー・リンチ少将。
7ヶ月前に捕虜となったが、軍の都合で帰還した男さ。
同盟軍と帝国軍の戦闘は殆ど、フェザーン自治領の謀略かもしれない。
捕虜交換の度、莫大な仲介料が領主の懐に流れ込んでいる。
コステア大佐は年金の数十倍も経費を横領して、フェザーンの銀行に匿した。
君が捕虜となった経緯も、元を辿れば善良な貿易商人を装う輩の陰謀だろう」
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