第四章、その2の3:疑わしきそれ
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就寝の寝台に窓辺から差し込む夜光は、北に身を移すにつれて徐々に明朗になっていく気がする。地平の彼方に浮かぶ大きな綿雲に近付いていくような、そんな奇妙な感覚であった。不思議と違和感は覚えず、それゆえに安眠を妨げる事は無い。クウィス男爵の館は寝息によって静まり返っていた。
そんな中、ユミルは眠れないままでいる。背後に横たわるキーラの存在感のためであった。薄めの毛布も取っ払って寝ようとしているが、目は醒めたままである。
「・・・寝ているか、キーラ殿?」
「・・・・・・」
「・・・寝てるか」
「・・・起きています」
「む、そうか。早く寝るべきだ、肌に悪い」
「分かっています」
互いに背を向けたまま、再び沈黙する。瞳と口を閉じるが、しかしどうにも寝れるような気分ではなかった。
(今宵はどうにも寝れる気分じゃない・・・なんだこの緊張感は?)
女性と同衾するのが久方ぶりなために、ついついと意識してしまう。無論の事睦みまで至る気は微塵も無いのだが、それでもである。
「(気まずい・・・何か話でもせん限り眠れんな)・・・あー、キーラ殿?」
「何ですか」
「その・・・なんだ・・・なんでケイタク殿を好きになった?」
「え・・・」
窮して出でた質問に思わず絶句した。キーラも、ユミルも。
(お、俺は何を聞いているんだ!?どうして他の話題を思いつかない!?)
「そ、それは・・・その・・・答える前に聞きますけど、ユミルさんは、私の事が?」
「そんな訳、ある筈が無いっ。いや、ただな、その・・・」
「・・・思いついたのがこの話題だから、ですか?」
「・・・はい」
心中をあっさりと読んだキーラは小さく息を吐き、少しばかり安堵した様子で続ける。
「ケイタクさんに負けず劣らず素直な人なんですね。・・・でも、あの人に似ていて、ちょっと安心しました」
「・・・好きな奴と似ているから、心中も察しやすいと?」
「ああ、そこは違うんですね。ケイタクさんは、そういう淡い気持ちを察するのは疎い方ですから。人の悩みには気付く癖して、駄目な人です・・・。いつも直球勝負しか出来ないんだから、誰かがあの人を支えてあげなきゃ、危なっかしくて見てられません」
「理解できる。あいつは状況に対する適応力はある。が、馬鹿だ。人を巻き込む上に危機感が薄く、その癖自分から危険に飛び込んでいく。上司にするには最悪のタイプだ」
「では、どうしてあの人と?」
「この時代、あいつほど、自分の気持ちを素直に語る奴も珍しいからだ」
「・・・それだけですか?」
「・・・パウリナが北に行きたいとごねたからだ」
虫の居所を少し違えたように、ユミルは硬くなった口調で言う。キーラが微かに笑みの声を漏らしたのを聞いて、ユミルはこそばゆさを覚え
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