木綿季
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とハードル高いなあ……でも……うん。そんな未来、なったらいいな……』
「きっと来るよ! 私、そのためなら何でもする! あ、お医者さんにはなれないけど……うん、毎日だって来る! 剣術のこと、何でも教えてあげるから! だから、ね?」
『……! ありがとう!』
木綿季の音声は、今度は嬉しそうな声色だった。
まだまだ満足していない。だが、可奈美が出ざるを得ない状況になってきた。
「また検査?」
『うん。万に一つでも、治療法を探してくれているから』
病院スタッフが、木綿季の病室に立ち入っている。これから只ならぬ治療の時間なのだとわかっていた。
「そっか……それじゃあ、今日はここまで?」
『うん。でも、色んな技が見れて、本当に嬉しかった』
木綿季に感謝されて、可奈美は鼻をこする。
白衣の医者たちが増えてきた頃合いに、可奈美はギターケースを背負った。
「ほう。貴女が先日来てくださった刀使の方ですか」
帰ろうとしたとき、可奈美の背後から声がかけられた。
振り向くとそこには、見上げるほどの長身の男性がいた。他の医者たちとは真逆に、赤いラインが入った黒いスーツを着こなしており、太陽のごとく広がった髪から、まるでライオンのような勇猛な印象を受ける。
「初めまして。刀使の方。当院院長の、フラダリ・カロスと申します」
「ああ、初めまして。衛藤可奈美です」
可奈美は慌ててお辞儀をする。フラダリと名乗った男は、それを受けてから、病室の木綿季へ視線を移す。
「刀使の方に実際にお会いするのは初めてですね」
「そうですか……」
可奈美は少し気まずさを感じながら、足を止める。
フラダリは続ける。
「刀使というのは、人々の平和のために戦っておられるという話をよく聞きますが、実際はいかがなのですか?」
「実際そうです。荒魂から人々を守るために戦っています」
「ほう。それでは人にその刀を向けることはないと?」
何故だろう。フラダリの視線が、とても強くにらんでいるように思えた。
フラダリは続ける。
「競技の一つである剣術ならば、競い合うこともあるのでしょう。それならば、他者を蹴落とすこともあるのでは?」
「まあ……ありますけど」
その返答をどう受け取ったのか。フラダリはどことなく悲しそうな顔を浮かべる。
「刀使というものも、結局は争いか……」
「争い?」
「いいえ。何でもありません」
それ以降、フラダリは可奈美を一瞥することなく、病室へ入っていった。
可奈美は少し唖然としていた。やがて、木綿季の姿がどこかへ連れていかれるのを見届けて、可奈美は病室を後にした。
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