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失態
第四章
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 略奪に走った、民家という民家に雪崩れ込みまずは食い物を奪った。
「パンを寄越せ!」
「俺達の飯だ!」
「どけ!」
 剣を市民に向けて斬る、忽ちのうちに民家が鮮血に染まる。
 奪うものは食料だけではなかった、財宝も奪っていく。
 傭兵達は食料と財宝を奪いそのうえで次々に人を殺めていく、しかも戦いで殺伐としていた為殺し方は戦場特有の惨たらしいものだった。
 手足が切られ胴が裂かれる。馬が子供を踏み潰し曳いていく。
 そしてさらにだった。
 子供達がパン焼き窯の中に放り込まれ生きたまま焼かれる、娘達がどうなったかはもう言うまでもなかった。
 あちこちで動物達が貪られる、町は殺戮と狂乱の宴の場になっていた。
 士官達はその有様を見て呆然となる。そして血相を変えてティリーに言った。
「司令、何とかしましょう」
「このままでは町が」
「既に多くの犠牲者が出ています」
「何とかしなければ」
「恐ろしいことになります」
「いや、無理だ」
 ティリーも惨状を見ていた、だがだった。
 彼は苦々しい顔でこう言ったのだった。
「こうなった傭兵達は止められない」
「では町はこのまま」
「彼等の為すがままですか」
「そうなるしかないのですか」
「私の失態だ」
 それに他ならないと言う、だがそれでもだった。
 彼はもう何も出来なかった、目の前で蛮行の限りを尽くす傭兵達を。
「マグデブルグは終わりだ。そして」
「これでは皇帝軍の名声も落ちます」
「そして新教徒達も旗印にもなります」
 この虐殺が彼等の戦いの大義名分になるというのだ。
「最悪の結果になりました」
「考えられる限りの」
「わかっている。だがもうどうしようもない」
 この状況はというのだ。
「何もかもがな」
 マグデブルグは陥落しその際の蛮行により三万の市民のうち二万五千が虐殺された、生き残ったのは女達ばかりだったが死んだ方がよかったという有様だった。
 死臭は遠くまで及び町を焼く炎も見られた、そしてこのマグデブルグの惨劇はティリー達の危惧した通りになった。
 マグデブルグを忘れるな、恐怖した新教徒達は旧教徒に対する団結を強くし一層攻撃的になった。そしてスウェーデンもこれを口実としてより介入の度を深めた。
 新教徒達はマグデブルグの報いと言って旧教徒達を殺戮し惨劇は続いた、三十年戦争はより酷い有様となった。
 三十年戦争は欧州の歴史の中でも有名な戦争でありその犠牲は計り知れない。その中でもマグデブルグの惨劇は知られているがこの惨劇は傭兵達の手によるもので名将と言われ統率も上手だったティリーですら容易ではなかった、このことは歴史にある通りである。戦争、そして傭兵は多くの惨劇をもたらす存在でもあった。


失態   完


        
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