第三章
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「少し待て」
「わかり申した」
平太は父の言葉に頷いた、それでだった。
鞘にかけていた手を戻した、藤田は息子のその動きをやはり見ることなくそのうえでまた言ったのだった。
「下手に鞘に手をかけるとな」
「なりませんか」
「相手を下手に気を付けさせる」
そうなるというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「それはまさにいざという時でよい」
「そうなのですか」
「だから今はな」
「鞘に手をかけず」
「落ち着いておれ、我等なら相手が何かしようとすれば」
その時が来ればというのだ。
「すぐに鞘に手をかけてな」
「刀を抜けますな」
「そしてどの様な相手でも切れる」
それだけの腕があるというのだ。
「お主にしてもな」
「はい、それがしも免許皆伝です」
藩の剣術師範であり但馬でも一番とさえ言われる剣の腕を持つ父と比べると流石に落ちるがとだ、平太は答えた。
「剣も。そして」
「柔術もな」
「その両方で」
「だからだ」
「相手が何かしようとしてきて」
「殺気を感じたらな」
はっきりとしたそれをというのだ。
「その時はな」
「鞘に手をかけ」
「抜くのだ、それでよい」
「わかり申した」
「その様にな、さてわかっておる」
藤田は今度は周りに対して言った。
「全てな」
「その様であるな」
「もう我等に気付くとは」
「お主只者ではないな」
「そこの若い者もかなりの手練の様だが」
「お主はさらにだな」
「伊達に歳は取っておらぬ、それでだ」
藤田は一歩も動かないまま周りの気配達に対してさらに言った。
「そなた達が火の正体か」
「火?あれか」
「あれのことか」
「我等が出す夜の灯りのことを言っておるのか」
「左様、そのことで聞きたいのだが」
「何用か」
平太も感じた、その瞬間にだった。
親子の前に大柄な山伏の身なりに背中に大きな翼を持つ赤ら顔の男が出て来た。顎と鼻の下の髭は白く鼻は高い。
平太は厳めしいその顔の男を見てすぐに言った。
「天狗か」
「大天狗そしてだ」
天狗は平太に応えつつさらに言った、すると。
二人の周りにやはり山伏の恰好で黒い翼に烏の顔をした小柄な者達が出て来た、天狗は彼等が出て来たところでまた言葉を出した。
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