第一章
[2]次話
川越城の主
太田道灌はこの時主の上杉家から武蔵の然るべき場所に城を築く様に命じられた。
彼は主に言われたことを思い出して家臣達に言った。
「殿の言われたことだが」
「はい、容易に攻め落とせぬ城ですな」
「当家にとってこの上なく頼りになる守りを築け」
「そう命じられましたな」
「そうじゃ、とはいってもな」
ここで太田は難しい顔になった。あまり濃くない髭を生やしていて細面で目の光はかなり強いものである。
「この武蔵はな」
「平野ですからな」
「他の国の様に山に城は築けませぬ」
「そこが問題ですな」
「どうしても」
「それで川や沼を守りに使うことになるが」
平野に城を築くならそうしたものを守りに使うというのだ。
「やはりな」
「左様ですな」
「そうなりますな」
「この武蔵で城を築くとなると」
「他の城もそうですし」
「調べるか」
太田は腕を組み考える顔になって述べた。
「ここは」
「と、いいますと」
「武蔵の川や沼をですか」
「それを調べますか」
「そうする、田もな」
こちらもというのだ。
「田にも水があろう」
「そしてぬかるんでいますし」
「そこを進めば足を取られますな」
「実際それを守りに使っている城もあります」
「なら田もですな」
「調べる、城の縄張りはそれからじゃ」
築城はと言ってだ、そうしてだった。
太田はまずは武蔵の川や沼を調べさせた、そしてだった。
ある場所の沼の話を聞いて確かな声で言った。
「よし、あの場所じゃ」
「あの場所ですか」
「あの場所に城を築かれますか」
「そうされますか」
「うむ、あの場所が一番じゃ」
これまで調べた武蔵の場所でというのだ。
「あの沼があるならな」
「ですが」
家臣の一人がここで太田に言った。
「あの沼は」
「それじゃ、そうしたものがおるからな」
「だからこそですか」
「あの地に城を築く」
「そうされますか」
「毒は自分達が飲めば死ぬな」
太田はその家臣に不敵な笑みを浮かべて問うた。
「そうなるな」
「はい、それは」
「しかし相手に飲ませればどうなる」
「相手が死にまする」
「そうじゃ、毒も使い様じゃな」
「そういうことですか」
「ではあの地に城を築くぞ」
確かな声で言ってだった、太田はその場所に城を築かせた。
その際だ、彼は言った。
「よいか、外堀と沼をつなげよ」
「そうするのですか」
「外堀と沼を」
「つなげるのですか」
「左様、そうせよ」
家臣達に確かな声で告げた。
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