第三章
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「民達の間で」
「はい、考えてみますと」
「無駄に命を粗末にせぬな」
「よいことかと。埴輪は人の形をしていますので」
そして人形はというのだ。
「ですから」
「魂もあるな」
「それに人よりも多く供に出来ます」
「小さいし幾らでも造られるからな」
「だから尚更いいかと」
「そなたの言うこともっともである」
帝はこうも言われた。
「これより朕も皇室の者達はだ」
「旅立たれる時は」
「埴輪を供とすることとする、他の者達もだ」
「人を供にすることはですな」
「してはならぬとする」
こうしてだった、帝は誰かが死んだ時に人を供にしてその者を死なせることを禁じられた。その代わりに埴輪を供とされることとした。
宿禰はこのことを帝に献策した功により土師連という姓を賜った、そして朝廷においても重きを為す様になった。
だが宿禰はその功績を驕ることなく言うのだった。
「無駄に死ぬ者がいなくなったことがだ」
「喜ぶべきこと」
「そうだと言われるのですな」
「うむ」
その通りだというのだ。
「まことにな」
「左様ですか」
「功よりもですか」
「そのことの方が嬉しいですか」
「実にな、功はよい」
自分のそれはというのだ。
「それよりもな」
「命が助かる」
「その方がよきこと」
「左様ですな」
「そうじゃ、では埴輪を造ってな」
そしてとだ、宿禰は周りに笑顔で話した。
「これからもじゃ」
「旅立つ方々の供とする」
「そうされますか」
「そうしようぞ」
こう言って自身もその大きな身体で小さな埴輪を造る。土で造って焼いたそれを見て彼はさらに言った。
「こうして造ると愛着があるのう」
「ですな、見ていてです」
「どうも愛嬌がありますし」
「供にしたいですな」
周りも笑顔で言うのだった。
野見宿禰のこの話は今も伝わっている、相撲の祖であることで知られている彼であるがただ強いだけではなかった。こうした知恵と知識そして仁愛の心も備えていた。そうした人物であったことは歴史にある通りである。彼は心も備えた真の強者であったのだ。
埴輪 完
2020・4・14
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