【第1試合】高校野球序編
【1回表】
◆第1球『当たり前だろ…』
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XXX6年 2月16日
肌寒さの残る東京の空、
流石に前日の雪はあがっていだが、
時折吹く冷たい風に制服の上に着たコートの襟をキツく絞める。
「おーい、ヒロ」
目的地への道途中で背後から声をかけられて青年は振り返る。
短髪黒髪、
前髪を上げた髪型、
黒縁のメガネの下に覗くのは端正な二重瞼に筋の通った鼻、
濃すぎるわけでもなく薄すぎるわけでもない
万人受けするイケメンである青年は声の主を確認すると小さくため息を吐いた。
「なーんだ。片桐か」
そう興味無さそうに答えると青年は片桐に背を向けて歩を進める。
「おいおい、ちょっと待てよ。一緒に行こうぜ」
片桐はそんな青年の様子を気にする素振りもなく彼に追いつくと並んで歩き出す。
共に1歩、2歩、3歩…
沈黙が続く並木道には時折北風が降り注ぐ。
青年は口を開かない。
片桐はそんな彼の様子を一瞥すると何も気に留めてないように前を向いた。
「緊張してるか?」
片桐の言葉に青年は少し顔を歪ませる。
「別に」
そう一言だけ返した青年は再び口を噤んだ。
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しばらく行くと眼前に白色の建物が見えて来た。
広大な敷地の中に建つ3つの建物が校舎だと分かる。
「ついに来たな」
片桐の言葉にも青年は何も答えない。
今日は休日だからか校内には人影は少ない。
校門すぐ脇の広場に人集りができているくらいだ。
2人は校門をくぐると広場に足を向ける。
【XXX6年度東京都立千川高校入学試験結果】
広場の掲示板にはそう高々と掲げられた紙が貼られている。
青年は制服のポケットから受験票を出すとそこに書かれた番号を探す。
「ヒロ!あったぞ!お前の235番」
片桐がそう叫ぶと俺の背中をパンっと叩く。
「おのれ…こういうのは自分で探して見つけて喜ぶもんだと相場が決まってるんだよ」
青年はそう悪態をつくと片桐に蹴りを入れる。
「そのために道中シリアスさ加減を演出してたのにな」
そう言って笑う片桐に青年はもう一発蹴りを食らわせた。
「ところでお前は?」
「誰にモノを言っていんだ?」
青年の問いに片桐はVサインで答える。
パン…
2人は笑顔でハイタッチ、互いの合格を喜んだ。
「なぁ、片桐…」
「ん?」
「俺、ここでやり直せるかな」
笑顔から一転、青年の口から紡がれた言葉に片桐は一瞬真顔に戻る。
そして盛大に青年の背中をバンっと叩いた。
「当たり前だろ」
青年の名は碓氷広嗣
この青年が歴史の表舞台に登場するのはまだ少し先の話…
----第1球『当たり前だろ…』 完
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