第二章
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「いいのですか」
「テノールだね」
「はい、主役ですが」
「最初はそう思ったよ」
「最初はですか」
「声域がバリトンだって言われたその時はね」
バリトンであることを残念に思ったというのだ。テノールでないので主役を務めることができないと思ったからだ。
だがそれでもだというのだった。
「けれどその考えはすぐにな」
「変わりましたね」
「気付いたんだよ、バリトンの素晴らしさに」
マッチェリーニは微笑んでライモンディに話す。
「そのことにね」
「お気付きになられたのですか」
「リゴレットを演じることもできればシモンを演じることもできる」
そして歌うこともだというのだ。
「その他の役もね」
「演じ歌えるからですか」
「テノールにリゴレットは歌えるかな」
せむし、つまり腰が曲がり宮廷で貴族に仕えながらも陰険な悪口を言い恨みを買う道化師、それでいて己の娘をこよなく愛するこの役がテノールに歌えるかというのだ。
「それができるかな」
「いえ」
ライモンディはマッチェリーニのその問いにはっきりと答えた。
「それは無理です」
「リゴレットはバリトンの役だからね」
「まさにヴェルディバリトンだね」
「その役の一つですね」
「まさにヴェルディバリトンだよ」
「テノールでは決してなく」
「そう、バリトンなんだよ」
まさにそれだというのだ。
「テノールでなくてね」
「テノールも味がありますけれどね」
ヴェルディはバリトンだけではないのだ。テノールにしてもソプラノにしてもよさがある、だがそれと共にバリトン、そしてメゾソプラノもなのだ。
独特の味がある。その中でもやはりだった。
「バリトンですよね、ヴェルディは」
「そのことがわかったからね」
「バリトンでもいいと思ったんですね」
「それで満足しているよ。特にね」
「特に?」
「今度イヤーゴを演じる予定は」
「三ヶ月後ですね」
ライモンディはスケジュール帳を開いてからこう答えた。
「場所はスカラ座です」
「そこでだね」
「はい、そこでイヤーゴを歌って」
そしてだというのだ。
「次の役ですけれど」
ライモンディはその役のこともマッチェリーニに話した。
「ジェルモンです」
「椿姫の」
「はい、あの作品のです」
ヴェルディの歌劇の中では異色になる女性的な音楽の作品だ。このジェルモンという役は田舎からパリに出て来た青年アルフレードの父親であり息子を心配すると共に厳しく諭すこともある、そうした父親なのだ。
イヤーゴ、シェークスピアの中でもとりわけ悪の趣が強いこの役の後でその父親の役だ。ライモンディは苦笑いをしてこうマッチェリーニに述べた。
「これはちょっとですね」
「極端だね」
「演じられるかはともかく」
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