第五章
[8]前話
「この連中だったか」
「そうです、この顔は忘れようがありません」
「目は細くて吊り上がっていてエラが張ってます」
「しかもでかいですから」
「この連中で間違いないです」
「この連中は軍の者ではないのだ」
大尉は後ろ手に縛られ項垂れている彼等を見ながら町の者達に話した。
「軍属だ。軍属の者達だ」
「ではこの連中がですか」
「日本軍と称して悪さをしていたんですか」
「そうなんですか」
「日本軍の規律は諸君等も知っていよう」
大尉は絶対の自信を以て町の者達、フィリピン人の彼等に問うた。
「そのことは」
「えらく厳しい軍隊ですね」
「こんなに悪いことをしない軍隊ははじめてです」
「ものも取らなければ女にも手を出さない」
「凄いことだと思います」
「我等は軍規軍律にないことはせぬ」
それは絶対だというのだ。
「鉄の如き軍律に逆らうことは許されぬ」
「だから悪いことはしないのですか」
「そうなのですか」
「恥ずべきこともせぬ」
大尉はまた誇りと共に断言する。
「しかしそれは軍のことだ」
「軍属にはですか」
「そうしたことは」
「目を光らせておるつもちだがな」
だがそれでもだと。大尉は今度は歯噛みした顔で述べた。
「しかしそれでもだ」
「悪さをする連中がいるのですか」
「この様に」
「そうだ。今回のことはまことに申し訳ない」
大尉は頭を下げた。部下の憲兵達もまた。
「我等の不始末だ」
「軍だけでないとは」
「軍属もあったのですね」
「来てそして何かをするのは」
「軍人以外もあったのですか」
町の者達は縛られ項垂れているその軍属の者達を見て納得した。日本軍が占領していた地域であったことだ。
日本軍は確かに極めて軍規軍律の厳しい軍でありそれを破ることなぞ考えられもしなかった。しかしそれは軍だけのことだ。
軍属の者達は何かと軍の目を盗んで悪事を働いていた。そしてその中には今の領土的な観点から日本ではない地域の出身者も多かった。
その彼等がしてきたことがそのまま日本軍の悪事とされ当時から言われていた。このことは近年になるまでわからなかったことだが次第にわかってきた。日本軍の監督不行き届きがあったことは事実だが彼等の悪事でないことまで彼等の悪事になっていることは後世にも伝えておきたい。このことが多くの人が知ることを心から望む次第である。
軍属 完
2012・8・22
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ