その名はクトリ
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「取材?」
チノが驚きの声を上げた。
丁度退院の日。一足先に退院したマヤがメグと歩き去っていくのを見送った後、ハルトがそう伝えた。
「そう。取材。明日、なんかアイドルだったかモデルだったかの子が来るらしいよ」
「ど、どんな人なんですか?」
チノの声が興奮で震えている。ハルトはポンと彼女の頭を叩きながら、
「今新進気鋭ってやつらしいよ。俺も良く分からないけど。チノちゃんはこういうの好きなの?」
「いえ。全く好きではありません」
チノはきっぱりと言い放った。だが、彼女の頬に残る赤身が、冷めきれない興奮を物語っている。
「別に私はそういう俗物に興味はありません。時々マヤさんメグさんが話しているのを聞いていますが、別に共通の話題が欲しいわけじゃないです。ただただ、ラビットハウスの宣伝になってくれるなら、売り上げになるのが嬉しいだけです」
「普通に嬉しいんだね」
「違います」
そう言って、病院の玄関へ向かうチノの足取りは、どう見ても喜びのそれだった。
「チノちゃん、待ってよ。ほら」
ハルトは、チノにヘルメットを投げ渡す。が、運動神経ゼロのチノはそれをキャッチできず、頭にゴチンとぶつけてしまった。
「あう……」
「あ、ごめん」
「いえ……それより、早くラビットハウスへ戻りましょう」
顔ではいつものチノのポーカーフェイスだが、それ以外の部位が震えている。
「チノちゃん、アイドルの人に会いたいんだよね?」
「会いたくありませんあくまで宣伝です会いたいわけじゃないです」
「はいはい」
素直じゃない中学生に続いて、ハルトは病院を出る。
平日昼間の、比較的人の少ない病院。中年老人が多い中で、ハルトやチノという若い人物はそれだけで一目を集める。
だからだろうか。
病院の外庭に佇む、蒼い少女もまた、とても目立っていた。
「あれ? あの子……」
ハルトは、思わずそちらに注目する。
蒼いツーサイドアップの少女は、白いワンピースの上にコートという、冬には寒い衣装で青空を見上げていた。
噴水のある病院の庭にただ一人の彼女。この光景を額縁に入れれば、有名な絵画にもなるだろうと感じていた。
「確かこの前の……」
「ハルトさん?」
チノを置いて、ハルトの足はいつの間にか彼女へ向かっていた。
蒼い少女は、静かに朝の空気に触れる。まるで空中に浮かんでいた鈴のように、彼女の指先は風という涼しい音を奏でた。
「……」
決して、何も見えはしない。だが、彼女が奏でるその音色は、太陽の光を捻じ曲げ、不可視を可視にしていた。
「こんにちは」
ハルトのその声に、蒼い少女は振り向く。驚いたような表情は、ハルトをしばらく見つめて
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