第91話『恋人』
[1/6]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
色々あった林間学校がようやく終わりを迎えた。地獄の様な肝試しや規模のおかしいスタンプラリー、そして甘酸っぱい花火の時間。どれをとっても、記憶に鮮烈に残る思い出には違いない。
特に最後の出来事については、帰りのバスの中で散々いじられたが、次第に疲れで皆が眠ってしまったので、何とか難を逃れたといったところだ。
そしてバスは学校に着き、今晴登と結月は逃げるように2人で帰路についたところだ。
「はぁ、ようやく解放された……」
「大変だったね……」
2人して大きなため息をついた。
全く、クラス内でカップルが生まれただけであの騒ぎよう。子供っぽいったらありゃしない。いやまだ子供だけども。
それにしても──
「何、ハルト?」
「い、いや、何でもない……!」
度々結月をチラ見しては目を逸らす。晴登はそれを繰り返しながら、まだ実感を得られずにいた。
──結月と恋人関係になった。
そう、今までのような曖昧な関係ではなく、晴登と結月は晴れて恋人同士なのだ。距離感や接し方もこれまでのとは当然変わっていく……はず。
なのにそんな気配を全く感じないため、晴登は「あれは花火が見せてくれた夢なのではないか」と疑い始める始末だ。
かといって何か案がある訳でもなく、むしろ今まで通りなら、それはそれで晴登の心配は消えるからありがたかったりもする。
「ねぇ、ハルト」
「ん?」
「手、繋がない……?」
「え……」
いつもなら強引なくらいに手を掴んでくる結月が、今日は珍しく事前に訊いてきた。しかも何だか照れくさそうだ。
一体どうしたんだろう、と考え始めた晴登ははたと気づく。
これ、すごく恋人っぽくないか……?
手を繋いで歩くというのは、恋人の代名詞と言っても過言ではない。だからこのタイミングで訊くということは、恋人として手を繋ぎたいという、彼女の意思表示なのではないか。うん、間違いない。
そうと決まれば、晴登は男らしく彼女の手を──
「あ、う、うん、いいよ」
引ける訳もなく、手を差し出すだけに留める。
やっぱり無理だ。意識すればするほど、手を繋ぐことにブレーキがかかってしまう。恥ずかしい。
「ありがと」
そんな晴登の手を、結月は優しく握ってくれた。
こうして繋ごうと思って繋いだことは初めてだから、すごくドキドキする。
「……っ」
「え、ちょ……!」
それだけでもかなりくすぐったい気持ちなのに、なんとその後結月は指を絡めてきたのだった。
これは俗に言う、『恋人繋ぎ』というやつではなかろうか。うわ、もっと恋人っぽい……!
「「……」」
お互いに照れて、無言の時
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ