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山爺の声
第五章

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「何じゃ今のは」
「これが鉄砲の音じゃ」
 池田はあやかしの言葉に答えた。
「どうじゃ」
「何という音じゃ」
 山爺は魂消た声で応えた。
「これは驚いたわ」
「お主の声とどちらが大きい」
「鉄砲じゃ」
 山爺は自分から認めた。
「わしは到底こんな音いや声は出せぬ」
「では負けを認めるか」
「認める、わしの負けじゃ」
「ではな、しかしな」
「しかし。何じゃ」
「お主負かした相手は放っておいたな」
 気絶したままでとだ、池田は山爺にこのことを問うた。
「そうであるな」
「それがどうかしたのか」
「勝っても何も求めぬか」
「求める?何をじゃ」
 それこそとだ、山爺は池田にいぶかしむ声で問い返した。
「一体」
「だから勝ってな」
「勝って嬉しいではないか」
「それで終わりか」
「それで何を求めるのじゃ」 
 池田に聞き返しての言葉だった。
「そもそも」
「勝ったらそれでよしか」
「左様、わしは人を食うとか悪戯とかはせぬ」
「断じてか」
「人の様に見るからにまずそうなものは食わん」
 そこはしっかりと言うのだった。
「骨と筋ばかりで如何にもな」
「まずそうか」
「だから食わん、そして悪戯もせぬからな」 
 それでというのだ。
「勝ったらじゃ」
「それで終わりか」
「そうじゃ」
「そうか、ならよい。ただな」
「今度は何じゃ」
「山で気を失うとそこで熊や他のあやかしでも出たら厄介じゃ」
 池田は今度は彼が気絶させた者達の話をした、その大声で。
「狼もな」
「熊も然程人は襲わんぞ、狼は殆どじゃ」
「あやかしもじゃな、しかし厄介なのは事実じゃ」 
 それ故にというのだ。
「だからじゃ、気絶するまではな」
「大声を出してはならんか」
「今度からそうしてくれるか」
「わかった、わしも人に害を為すつもりはないからな」
「勝ってよいのならな」
 それならというのだ。
「人が気を失うまではな」
「大声を出さぬということで」
「これからは頼むぞ」
「ではそうしよう」
 山爺も納得した、そうしてだった。
 池田達と別れて山の奥に入っていった、それから彼が人に大声の出し合いを挑んでも人を気絶させるまでには至らなくなった。
 池田は岐阜城に戻ると信長にことの始終を話した、すると信長は喜び彼にとっておきの褒美をやって労った。
 その後で帰蝶は信長に問うた。
「この度のことですが」
「勝三郎に行かせたことじゃな」
「それはどうしてでしょうか」
「うむ、まずあ奴はずっとわしの傍におるな」
 信長は帰蝶にこのことから話した。
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