【 起 】
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「猫だな」
真田がぼそりと言った。
「猫・・・なのか?」
美鶴は判断に迷ってつぶやいた。
確かに「猫」と表現するしかない姿だが、しかしこんな猫はいない。子供向けの漫画か、ゆるキャラのような姿と言ったらいいだろうか。それがタルタロスの迷宮で大の字になって倒れているのだ。思わぬ事態に、全員が戸惑いつつ顔を見合わせた。
影時間にのみ現れる迷宮の塔タルタロス。その構造は、入るたびに変化して人を惑わす。ここでは何が起きてもおかしくはない。常識の通用しない非現実な迷宮なのだ。
そして、この迷宮の主はシャドウだ。人の精神が暴走して生まれる異形の怪物。タルタロスには、この怪物が無数に巣食っている。
特別課外活動部は、迷宮内に徘徊するシャドウをかわし、時に戦い、内部を探索して塔の上を目指していた。
全てのシャドウを駆逐し、影時間を消すために・・・。
修学旅行から戻って数日が経っていた。
美鶴にとっては、幾月の裏切りで父を亡くした あの「運命的な日」以来のタルタロスとなる。ついこの間の出来事なのに、随分時間が経過したような気がする。その間、美鶴は心が折れ、目標を見失い、ただ後悔と挫折による虚無感に囚われていた。
信じていた人に裏切られ、もっとも大事な人を奪われた。今もその心の傷は癒えていないが、それでも ゆかり のおかげで再び前に進む気力を取り戻すことができた。
今日も、彼女を支えるかのように ゆかり と、そして真田が探索メンバーに名乗り出てくれている。これまで彼女を信じて一緒に歩んできてくれた仲間の為にも、ここで立ち止まることはできない。
タルタロスは依然としてそびえ立っており、影時間もシャドウも存在している。戦いはまだ終わらないのだ。
こうして決意も新たに探索を進めていたところ、次のフロアに上がる階段の手前で、この『猫のような生き物』を発見したのだった。
「シャドウ・・・じゃないですよね。死んでるのかな。」
ゆかり がそっと弓の先でつついていてみるが、全く身動きしない。
「ひょっとしてぬいぐるみ?」
そう言うと、彼女はおそるおそる手を伸ばしかける。
【ゆかり ちゃん。なんだかわからないけど生きている反応はあるよ。気を失っているだけみたい。】
風花から通信が入った。
「生きてるの!? 」
ゆかり は慌てて手を引っ込めると、当惑した顔を美鶴に向けた。
「どうします? これにあんまり時間取られてると・・・そろそろ死神が出てくるかも・・・ですけど。」
「そうだな・・・どうするか・・・。」
常にはっきりした決断をする美鶴ではあるが、さすがに判断に迷って言いよどむ。
「放っておけばいいだろう。こんな所にいるこんな姿の猫がまともな存在なわけがない。相手にしないほうが得策だ。」
真田は無視を決め込んだらしく、すっぱりと言い放
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