暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第二部
第二章 〜対連合軍〜
百 〜シ水関の攻防〜
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暗闇の向こう側に何やら気配を感じた。
「……誰だ?」
「……………」
 恋の誰何には答えぬが、確かに何者かがいる。
 殺気を向けてくるところからして、間違いなく味方の兵ではない。
「……答えないなら、殺す」
 恋が方天画戟を手に、駆け出した。
 ガキン、と金属同士がぶつかり合う音が響く。
「さ、ささ、流石ね」
 若い女子(おなご)の声だが、聞き覚えはない。
「……兄ぃを狙う奴、恋は許さない」
「そそ、そんな事はし、しない……。で、でも、黙ってき、斬られたくはない」
「何奴だ、名を名乗れ」
 声が震えているというよりも……これは吃音か。
「…………」
「……答えないのなら、死ね」
 姿は見えぬが、恋は正確に相手の姿を捉えているらしい。
 敵もさるもの、その打ち込みを素早く躱している。
 ……と。
 関の一角で、火の手が上がった。
 うむ、頃合いのようだな。
「恋、合図だ」
「……ん」
 続いて、ドカンと爆発が起こった。
「なななな、何が起きた?」
「早く引き上げた方が良い。さもなくば、巻き込まれるだけだ」
「ま、ま、巻き込まれるとは?」
 その間にも爆発は続き、城壁がぐらぐらと揺れる。
「……兄ぃ。恋に、掴まって」
「うむ。……そこの者、今一度問う。名は?」
 火に照らし出され、敵の姿が朧気に浮かんだ。
 明命よりはやや背が高いぐらいの少女で、全身を黒装束で覆っている。
「…………」
「答えぬか。……では、当てて見せよう」
 少女が、驚いたように私を見る。
「トウ艾、字は士載。華琳の麾下であろう?」
「どどど、どうして……?」
「その吃音だ。……そうか、カマをかけたが正解だったようだな」
「!!」
「戻って華琳に伝えよ。虎牢関で待つ、とな」
 恋は、私を小脇に抱えると、城壁から飛び降りた。
 かなりの高さがあるのだが、全く躊躇はなかった。
 背後で、爆発音と共に、城壁が崩れ始めた。
「歳っち、恋!」
 着地した先に、霞が待っていた。
「霞、兵らは?」
「全員向こうてる。後はウチらだけや!」
「よし。参るぞ」
「応や!」
「……ん」
 馬に飛び乗り、駆け出した。

 シ水関を爆破し、巨大な障壁とする。
 ……あくまでも奥の手であったが、これでかなりの足止めになる筈だ。
 虎牢関での戦いでは、投石機への対策も練らねばなるまい。
 今度こそ、決着をつけてくれようぞ。
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