四十一 そして空は今日も青い
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だだろう。私もそうだった。宗家を恨み、憎んでいた…。だからあの夜。ヒナタ様が攫われた事を逸早く気づいたものの、私は迷った」
静かに語り出すヒザシの言葉をネジは夢現に聞いていた。
目の前にいる男は、幾度となく夢に見た、本当の父なのだろうか。今のこの状況は実際に現実なのだろうか。
「憶えていないだろうが、あの時…。異変を感じ、助けに行くべきか迷っていた私に、お前が寝ぼけながら言ったのだ」
そこでヒザシはネジの頭をそっと撫でた。優しい声音で告げる。ヒアシが静かに医療班員を下がらせ、自らも医務室を出て行った。
「「父上、いってらっしゃい」とな」
込み上げてくる涙を懸命に堪える。ネジの揺れる瞳を覗き込みながら、ヒザシは目尻に涙を湛えた。
「だから私は宗家の跡継ぎとしてではなく、私の姪としてヒナタ様を助けた。自分の意思でヒナタ様を、家族を守ったんだよ」
とても立っていられなくなり、ネジは蹲った。腕で顔を隠す息子に倣って、ヒザシもまた床に片膝をつく。窓から射し込む陽射しが彼ら親子をやわらかく包み込んだ。
「そして帰ってきた…。ネジ、お前に「ただいま」を言うために―――」
とうとう嗚咽を漏らし始めたネジの背を優しく撫でながら、ヒザシは長年答えられなかった一言を口にした。
それはほんの軽い挨拶で、そしてとても重い言葉だった。
「ただいま、ネジ」
「おかえりなさい…っ!父上……ッ!!」
一頻り泣いて、ネジはようやっと顔を上げた。腫れぼったい瞳を細め、窓を覗く。
「父上、鳥が飛んでいますね。とても気持ち良さそうに…」
「ああ…。そうだな」
晴れ晴れとした思いでネジは空を仰いだ。あれだけ憎かった青がとても美しかった。
そして空は今日も青い。
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