第1部
アッサラーム〜イシス
イシスの女王
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「ようこそ、あなたがあの噂に名高いオルテガ殿の意思を継いだ勇者殿なのですね。我々砂漠の民はあなた方冒険者を心より歓迎しますわ」
妖艶な微笑みを湛える黒髪の美女は、突然の来訪者たちにも全く不快感を示すことなく、歓迎の意を見せた。
その突然の来訪者である私たち勇者一行は、女王様とのお目通りの許可を頂いたあと、玉座の間へと通された。自己紹介を終えると、目の前に佇むこの世のものとは思えない美貌を持つ君主に、ただただ息を飲みひれ伏すしかなかった。
艶やかな黒髪はまっすぐに切り揃えられていて、豪奢な髪飾りが品のよさを存分に引き立たせており、長い睫毛と切れ長の瞳、すっと通った鼻筋にふっくらとした唇、薄い褐色の肌に合わせたきらびやかな装飾品が、彼女の美しさを一層際立たせている。
ナギなんか、この部屋に入ったとたん女王様以外のものなど目もくれないし、シーラも目をキラキラさせながらずっと見続けている。かくいう私もまるで絵画を見ているかのように飽きずにぽーっと眺めていたりしている。
ユウリはと言うと、女王様のことを見てはいるが、特に変わった様子は見られない。
「急な来訪にも関わらずお時間を設けてくださり、お心遣い感謝致します」
ロマリア王との謁見のときと全く変わらない言動に、私は内心焦っていた。
女性の私ですらドキドキするくらいの美人なのに、なぜかユウリは全くの無反応。興味はなくてもせめて、女王様の美しさを誉めるくらいはしてもいいと思うのだけれど。さすがのユウリも女性を褒めるという行為は抵抗があるのだろうか。
「あの、女王様は大変お美しい方ですね!」
業を煮やした私は、つい横から口を挟んでしまった。
けれど私の思惑とは違い、なぜか女王様は僅かに顔を曇らせる。
「皆私の美しさを褒め称えます。けれどそれは所詮一時のものでしかありません。姿かたちだけの美しさなど、何になりましょう」
そう言うと、淑やかにため息をついた。
けれど憂いを帯びた女王様の表情は、彼女の言葉とは裏腹に、儚くも繊細な美しさを醸し出している。
そしてその瞬間、私は失敗してしまったと悟った。さっきの言葉は女王様にとっては賛辞でもなんでもなかったのだ。私は自分の失言に、目の前が真っ暗になってしまった。
私が目を泳がせて反応に困っていると、隣にいたユウリが一言、失礼致しました、と口を挟んだ。
「彼女の言葉が足りないせいで、女王様にあらぬ誤解を招いたこと、お詫び申し上げます。先ほど彼女が伝えたかったのは、女王様の『心』が美しいと言いたかったのだと思います」
「『心』ですか?」
「はい。身分の差など関係なく、我々のような冒険者にも平等に接してくださり、また労って頂ける慈愛に満ちた心を持った人を、私はこの十数年生きてきて一度も
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