第一章
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何処が弱くなる
根室千佳はこの時自宅のテレビの前に座って感涙していた、観ればテレビでは広島東洋カープの黒田投手の引退セレモニーが行われている。
そのセレモニーを観てだ、こう言うのだった。
「広島に戻ってきてくれて優勝させてくれて有り難う」
「素晴らしい選手だったな」
兄の寿もそのセレモニーを観つつ言う。
「黒田さんは」
「お兄ちゃんもそう思うわよね」
「阪神ファンの僕から見てもな」
寿は妹に冷静な声で答えた。
「ただピッチャーとして凄いだけじゃなくてな」
「そのお心もね」
「素晴らしい野球選手だったな」
「今年の優勝は黒田さんと新井さんがいてこそよね」
「お二人が精神的支柱だったからな」
「優勝出来たのよ」
「全く、阪神は徹底的にやられたな」
寿はやれやれといった顔でこうも言った。
「本当に」
「あまり嫌そうじゃないわね」
「嫌だよ、けれど巨人じゃないからな」
「あまり怒ってないの」
「そう言うお前もだろ」
寿は最早信仰の域に達している鯉女である千佳に言葉を返した。
「巨人に負けるのと阪神に負けるのどっちが嫌だ」
「巨人に決まってるじゃない」
千佳は兄に即刻答えた。
「あのチームは邪悪の権化じゃない」
「そんなチームに負けたらな」
「もうそれだけで不愉快になるわ」
「そうだろ、僕もそれは同じだからな」
それ故にというのだ。
「カープにはな」
「落ち着いていられるのね」
「それでこうも言えるんだよ」
寛容な態度でというのだ。
「基本な」
「まあ私も阪神相手だとね」
「別に怒らないだろ」
「ええ、兄貴さん獲得された時も」
金本知憲、彼が阪神にフリーエージェントで行った時もというのだ。
「新井さんの時も」
「お前あんまりというか殆ど怒ってなかったな」
「ええ、けれどそれが巨人だと」
「物凄く怒るな」
「巨人は人類の敵だから」
まさにその通りである、この球団がその創設特に戦後してきたことは文字通り邪悪そのものであったのだから。
「そりゃ怒るわよ」
「その通りだな」
「その巨人は別でも」
「阪神はか」
「別に嫌いじゃないし」
敵ではあってもというのだ。
「別に言わないわよ」
「それは僕も同じだよ、ただな」
寿は妹にここで言った。
「黒田さんがいなくなったらな」
「精神的支柱だったけれど」
「その分広島は弱くなるか」
「それはね」
千佳も苦い顔で応えた。
「私も心配よ」
「やっぱりそうだな」
「黒田さんの存在大きかったから」
その引退セレモニーを観ながらの言葉だ、それだけに強いものがある。
「だからね」
「黒田さんが抜けた分な」
「かなりね」
どうしてもというのだ。
「
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