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トスカニーニの義侠
第二章
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「叱ってもいい、だが娘なのだから」
「見捨ててはいけない」
「こうした時こそ君は父親として傍にいるべきだ」
「グレーテルのだね」
「そう、だからいいな」
「彼女を護る」
「寄り添うんだ、だが離婚の条件はどうしてもだ」
 そちらはというと。
「夫有利になる」
「不倫をしたのは娘だからね」
「そうだ、だがピンツァという男は」 
 トスカニーニはワルターの娘の不倫相手であるこの歌手についても述べた。
「私も不快に思う」
「最高のバス歌手だが、だね」
「女好きの私でもだ」
 自分もそれは同じだが、というのだ。
「今回のことを思うとな」
「不快に思うのだね」
「以後彼と共に何かをすることはない」
「それは断るんだね」
「このことを真剣に考えている」
 こうワルターに話した。
「実のところは」
「私に気を使ってじゃないね」
「私自身の考えだよ」
「そうなんだね」
「どうもね、そして君に言うことは」
 ワルターにあらためて告げた。
「今は気をしっかりと持ってだ」
「そうしてだね」
「娘さんを護るんだ」
「そうさせてもらうよ」
 ワルターはトスカニーニに確かな顔で答えた、その表情も幾分ではあるが持ち直した、そうしてだった。
 娘であるグレーテルに寄り添う様にしつつ音楽活動を続けていた、その間に娘夫婦の離婚調停の話は行われていた、その中で。
 彼はルツェルンでの音楽祭に出る時に彼は周りに言った。
「私はこれから暫くグレーテルの傍を離れるけれど」
「それでもですね」
「その間は」
「娘のことが心配だ、君達もそれぞれの仕事があるし」
 それで娘の傍にいられないからだというのだ。
「不安だ、彼は最近だね」
「はい、非常に精神的に不安定で」
「どうもです」
「娘さんとピンツァさんとのことにさらに怒っておられ」
「あの人の周りが心配しています」
「何もなければいいが」
 ワルターは娘の夫、不倫された彼のことを思い言った。
「しかしだね」
「それはです」
「どうなるか」
「我々も不安です」
「そうだね、だが私も発たねばならない」 
 娘の傍からというのだ。
「ルツェルンに行かないといけない」
「今はご心配でしょうが」
「指揮に専念されて下さい」
「どうか」
「うん、そうさせてもらうよ」
 ワルターは周りの言葉に頷いて娘を心配しつつも今はルツェルンに赴いた、そこで指揮者としての仕事に入っていたが。
 楽屋にいた時にだった、彼のところに音楽祭のスタッフの一人が血相を変えて駆け込んできて彼に言ってきた。
「マエストロ、大変なことが起きました」
「まさか」
 娘がとだ、ワルターは察して言った。
「グレーテルが」
「ご主人に殺されました」
「娘と彼の仲に嫉妬してかい」

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