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渦巻く滄海 紅き空 【下】
三十八 名前
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、スパイであるサスケの口から五代目火影の耳にその情報が入る。

それをも見越してのナルトの発言に感嘆しながら、カブトは手元の薬に視線を落とした。


「出来ました。これが例の兵糧丸です」

天地橋へ赴く際、木の葉の忍びに雑じって、“根”からは鬼童丸・右近/左近が派遣される。
その際、右近/左近の内、一方は大蛇丸を騙す為に、鬼童丸に変化し続けなければならない。だが変化の術をし続けるとなるとチャクラがもたない。

故に、チャクラ増強剤としての丸薬をつくるようにナルトに頼まれていたカブトは、ようやく仕上がった丸薬を指でつまむ。一見、ただの兵糧丸だが、チャクラを増やし蓄える効果を持つ丸薬だ。
それらに不備がないか確認してから、カブトは丸薬をナルトに手渡した。

「貴方自らがわざわざお出でにならずともよかったのに」
「大蛇丸の眼を盗んでアジトから出るのは至難の業だろう?それに、顔を見に来ただけだ」
「そ、れは……大蛇丸様ですか?それとも、僕個人ですか?」
「後者だ」

丸薬を取りに来るという目的があるとは言え、自分の顔をわざわざ見に、大蛇丸のアジトへ人知れず訪ねてきたナルトに、カブトは口許を緩める。

「安心してください。僕ほど忠誠心が篤いものはおりませんよ」

幾度となく、大蛇丸に語った詭弁を、ナルトには本心から告げる。
一途に己に従うカブトへ、ナルトは苦笑を零した。

「眼鏡が曇っているんじゃないか?最初に言っただろう。俺はただの忍びだ」

盲目的だと言外に指摘するナルトに対し、カブトはかぶりを振る。
己は理性的な判断は出来ている。“根”から解放され、自由に生きろとナルトは言った。

だから自由に生きているだけだ、と答えるカブトに、ナルトは眉間を指で押さえる。


「…とにかく。天地橋へ向かえば、木ノ葉の忍びと右近/左近・鬼童丸との戦闘は免れない。お前の役目は鬼童丸達が死んだと見せかけることだ」

ナルトの言葉に耳を傾けながら、カブトは右近/左近・鬼童丸と同い年くらいの遺体を巻き物にストックしておくことを脳裏に焼きつけた。

「…大蛇丸様を更に信用させるのですね?」

裏切者には死を。元・音忍である彼らを殺し、大蛇丸への忠誠心を示す。
故に、右近/左近・鬼童丸には死んでもらう必要がある。そう、彼らそっくりに整形した遺体とすり替えることで。

月の光を浴びて、キラキラと輝く金の髪をカブトは見上げる。
視線の意図を察して、ナルトは口を開いた。


「頼んだぞ────『 』」
「はい。お任せください」


カブトの本当の名前を告げたナルトへ、深々と叩頭する。
顔を上げた時には、ナルトの姿は何処にも無かった。

窓から射し込む月の光が試験管に反射する。丸薬が消えている
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