ちいさなしまのおはなし
夜の静寂に
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憶えていないと言うことは、大した内容ではないのだろうけれど……はっきりしないのはイライラする。
「さってと……ん?」
電車に戻ろうと思って、同じく隣にしゃがんで顔を洗ったはずのブイモンに声をかけようと、横を向いた。
『………………』
「……ブイモン?」
『っ、な、何……?』
「いや、何って……」
顔を洗っていると思っていたブイモンは、隣で右手の甲をぼんやりとした眼差しで見つめていたのである。
その目に光はなく、まるでブイモンの心が夜の闇に溶けてしまったような感覚に陥った大輔は、恐る恐るブイモンに声をかけた。
途端に、は、と我に返ったブイモンの目に光が戻り、困惑した表情を浮かべながら大輔に答える。
「どうしたんだよ、自分の手なんか見て……」
『……え、と……』
大輔が尋ねるも、ブイモンは答えようとしない。
目を逸らし、落ち着きなく右手の甲を左手で擦っている。
怪我でもしたのかと思って、無理やりブイモンの右手を取って見てみたが、そんな跡は何処にも見当たらなかった。
しかし、安堵することも怒ることも、大輔には出来なかった。
取った手が、震えていたのだ。
小さく、小刻みに、でも確実に、ブイモンの手は震えていたのである。
慌ててブイモンはその手を引っ込めたが、もう遅い。
大輔にばれてしまった。どうしよう、ブイモンは再び右手を左手で掴む。
ブイモンには、大輔に言っていない秘密があった。
それは、仲間のデジモン達はみんな知っていることで、ブイモンがまだチビモンだった頃からの、公然の秘密だった。
チビモンがチビモンとしての物心がついた頃には、もう“それ”があって、ブイモンにはどうしようもないことであった。
何とかしようと努力はした。でもそれは、努力ではどうすることもできないものだった。
心と体は別物である、頭で理解していても、身体はそうそう納得してくれない。
脳みそが幾ら命じても、身体はその通りに動いてくれないのである。
右手の震えもそうだ。ブイモンがどれだけ止まれと願っても、身体が受け付けてくれず、勝手に震えてしまう。
せっかくカッコイイって、すごいなって大輔が言ってくれて、受け入れてくれているのに、ちっちゃなチビモンが大輔と同じぐらいの大きさになれたのに、“それ”はブイモンにしつこく付きまとってくる。
大輔を護るためにここにいるのだと、大輔のパートナーなのだと豪語しているのに、それを覆してしまうような“秘密”を抱えていることを知られたら、大輔に嫌われてしまうかもしれない。
そう思うとどうしても言い出せなかったのである。
大輔は大輔で考えていた。ブイモンが先程から気にしている、右手。
どうしてしきりに右手を気にしているのか分からなくて、大輔はここに来る
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