第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
004 生き残るために
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相手はもう、決まったか?」
フロルは既に識っていることを、さも知らぬかのように二人に聞き質す。こういった気遣いも、今では自然とできるようになった。フロルには誰にも言えない秘密がある。その秘密を隠すために、彼の知らぬ間に演技力が身についていたことは、将来の彼にとって役に立つものであったが、それを識る者はまだ誰もいない。
「戦術シミュレーションって?」
ふてくされていたジェシカが、気になったようにラップに尋ねた。
「戦術シミュレーションは士官学校二年の試験さ。高性能PCを使って様々な条件下からランダムに選択された戦場でもって、学生同士が対戦するんだ。ちなみに、昨年の優勝者はそこに座ってるリシャール先輩だよ」
ラップの言葉に、目を丸くしてフロルを見たのは、ジェシカにとっても意外であったからだろう。もっとも、昨年にしてもフロルの優勝を予見した者はおらず、誰もが目を丸くしたものだ、とフロルは思い起こしていた。だが、ただ一人だけ驚かなかった人間が、口を開く。
「私は学年首席のマルコム・ワイドボーンと戦うことになりました」
ヤンは非常に面倒だ、という気持ちを隠そうともせず言った。やれやれ、と言いたそうな物腰である。
「ヤンは俺に輪をかけた今年の問題児だからな。勝ったら面白いことになりそうだ、ちなみに、俺が昨年破ったのも俺の学年の首席だったからな」
フロルはそれを面白がっていた。
「そうだぞ、ヤン。リシャール先輩に見習って、ワイドボーンを破る義務が後輩にはあるんじゃないか?」
ラップもそれに乗じたようである。
さっきまで驚いていたジェシカも復帰して、やる気のなさを顔で表現しているヤンに笑みを浮かべながら頬杖をついた。
「やれやれ、学年首席と学年底辺の戦いか……。私が負けても誰も驚かないだろうけど、逆に勝ってもいらぬやっかみを買いそうだなぁ」
「ま、それ以前に戦史研究科の生徒が戦略研究科の生徒を破ったら、それだけで面倒なことになるだろうな」
フロルはにやにやと笑っていたが、あながち空想ではない。フロルはまだ戦略研究科であったため、同じ戦略研究科在籍の学年主席を破っても『ここぞという時に強い奴』としか思われなかったが、戦史研究科の落ち零れ??寸前??が戦略研究科のトップを破ったとなれば、戦略研究科の連中がちょっかいを出すだけでなく、教官からも目を付けられることは確実だろう。
だが、ここは全力で勝たせる必要があるのだ。
それはヤンが二学年になった今年起こるであろう、戦史研究科の廃止を見越してのことだ。ヤンが戦略研究科に転属するのは彼が三年生になった時のことである。
原作においてヤンがそもそも戦略研究科に転属するきっかけのなったのは、ヤンがワイドボーンを破ったという実績があったためであった。
無
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