第1部 沐雨篇
第1章 士官学校
004 生き残るために
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第二の人生で、必死に自分に出来ることを考えて生きてきた。
だがそんな彼でも予想していなかったことがある。
それは自分の感情であった。
自分は、この銀英伝の世界で、確かに生きている。
生きているということはつまりどういうことか。
日々の生活に、何気ない日常に、友人との語らいに、食事の美味しさに、映画の面白さに、本の感動に、喜怒哀楽を感じるということだった。
感情に流されてはならない。
何度、フロルは自分に言い聞かせてきただろう?
自分が成すべきことを思い起こし、なんど自らの気持ちを殺してきたか。
だが、これこそがフロル・リシャールが決意した道だった。
例え、それが目の前の可憐なお嬢さんの思いに反することと、なったとしても。
「そういうヤンも、面白くなかったようだがね」
フロルは話を変えようと、ヤンに視線を移した。
ヤンは暑さに辟易なようで、テーブルに突っ伏している。いい加減、フロルが甘やかすのをいいことに、だらけすぎである。
さすがに気になったのか、ジェシカがヤンの脇をつつく。
ヤンもラップとジェシカの白い視線に気付いたようで、慌てて背筋を伸ばした。だがすぐに猫背になる。
「は、まぁ、私は射撃が苦手で??」
「??ヤンの場合は苦手どころかやる気がないだけだろ」
ラップが茶化すように、ヤンの言葉に言葉を重ねた。ヤンはそもそも軍人の軍人らしい授業に悉く意欲がない。公務員という立場として士官学校の授業をただで受けているだけあって、落第だけは避けようとしているが、逆を言えば通りさえすれば良い、と考えているのだ。
ヤンはラップのごもっともな指摘に肩を竦めた。
「だがまぁ、あって困ることはないだろう」
「私の場合は、やっても上手くならないのです。どうやら、運動神経というものがそなわってないらしく……」
「その分、ヤンは座学が得意なんだろ?」
フロルの指摘も正確では無いだろう。
「自分の好きな教科、戦史とかのみですけどね」
逆にフロルは戦史が得意では無かった。というよりも、固有名称を覚えるのがフロルは苦手なのである。そもそもこの世界の人間、それも帝国の人間の名前は長すぎるのだ。貴族であればあるほど鹿爪らしい面倒な名前になって、もうそれだけでフロルのやる気は無くなってしまう。
それに戦史の授業のもっとも大切なことは、何年に何という名前の人物が何という名の戦争をしたか、ではない。その作戦における宙域の環境状況、彼我の戦力の内訳のその配置、また作戦を戦術的あるいは戦略的に見た場合の達成条件といった、どうしてその戦争がそのように推移したか、なのだ。むしろ戦史をそのような視点から見ているため、フロルは個人的には戦史は面白いと思っている。もっとも、固有名詞をどんどん無
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