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ナイン・レコード
ちいさなしまのおはなし
始まりの夏
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度に大輔が首から下げているホイッスルがカラコロと音を鳴らす。
辺りを見渡しながら奥へ奥へと進んでいくと人影が見えたので、大輔は視界に映った人物の下にたーっと駆け寄って行った。
ヒカリも一瞬遅れて走る。

「治さぁん!」

夏だと言うのに濃い渋茶色の半袖パーカーの下に、紺色の長袖シャツを着ている、太一と同級生で同じサッカークラブの先輩だった。
大輔ほどではないがちょっとボサついた黒い髪に、眼鏡をかけた優しそうな表情をした先輩である。
大輔の声を聴いて振り向いた彼──一乗寺治は、腕に枝を抱えていた。

「大輔にヒカリちゃん?どうしたんだ、こんなところで?野菜切る係りじゃなかったっけ?」
「もう終わりました!それで、あの、ヒカリちゃんのお母さんに頼まれて」
「お兄ちゃん、探してるんです。治さん、見ませんでしたか?」
「えっ、見てないなぁ……。あの莫迦、サボったのか?しょうがない、一緒に探そうか」

苦笑しながら、治は大輔とヒカリと一緒に太一を探してくれる。
治にも割り当てられた役目があったのに、申し訳ないとヒカリが謝ると、気にしないでいいよって笑ってくれた。
つくづく不思議だ、とヒカリは思う。
太一と治は親友である。
同じクラスで、同じサッカークラブに所属しているけれど、性格はまるで正反対だ。
太一は元気を体現したような活発な少年で、授業の時間はいつも爆睡して過ごす問題児。
対する治は成績優秀、スポーツ万能という文武両道な少年で、先生の言うことはよく聞き、クラス委員なども進んでやる、所謂優等生である。
問題児と優等生なんて一見相容れない相手ではあるが、正反対が故に相性がよかったらしく今のところ上手くいっているから、先生たちも口を出せずにいた。
大人の言うことなんか聞かん坊の太一も治の言うことだけは聞くし、治も治で太一の行くところに必ずついていくほど懐いている。
ヒカリが小学校に通う前にはもう既に仲が良くて、よくお家に遊びに来ていたし、お家に遊びに行っていた。
校庭で、2人だけでサッカーボールを追いかけている姿も、よく目撃されていた。
本当に、縁というのは不思議なものである。

「……あら?治くん?大輔にヒカリちゃんまで……」

キャンプ場の方は粗方探し終えているから、残っているのはこの辺りだけだ。
人もほぼいないし、サボるにはうってつけの場所だろう、と言うことで治と一緒にここら辺を重点的に見て回ろうとした時、向こうから別の声がした。
オレンジの髪を短く切って、水色の帽子を被り、黄色い袖なしのシャツとジーンズを履いた男勝りの女の子、武之内空だった。

「やあ、空」
「いないと思ったら、こんなとこにまで薪拾いに来てたのね」
「手頃な枝が近くになくてね。気が付いたらこんなとこにまで来ちゃってたよ。あ
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