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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第八十話六芒郭顛末(上)
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ぶりでしょうか?」
 ”皇国将校”の馬堂豊久は笑みを浮かべて恭しい口調のまま短銃を向ける。
「女を夜に訪れるとは無礼な男ね!」
 豊久はふてぶてしい微笑を浮かべ、杉谷に合図をすると兵たちは副小隊長と共に周辺の警戒のために出ていった。
「私どもがふがいないばかりに味方同士の殺し合いに及ぶとは、私のような田舎者にとっては理解が難しい御趣味ですなぁ」
「意見が合うな、私も如何にも理解しかねるが、貴様らが不甲斐ないとこうして暇を持て余した愚か者がこのような真似をするようになる」
 にこやかに笑みを交わしながら毒を投げつけある二人をみて杉谷はうんざりとため息をつき、初老の参謀長の止血を行った。
「貴族って大変なんですね」
「いやぁあれはあの二人がそれなりに面倒くさいだけだよ、君」

「ハッハッハ――さて、ご同行願いたいのですが?」
「俘虜の辱めを受ける気はないの」
 ユーリアはにこりと笑って短刀を抜き、自身の喉に向けるが豊久は欠伸の真似をしながら返答する。
「ふん縛って連れてゆくのは趣味ではありませぬので同意いただきたいのですが」
「‥‥口説き文句には無粋ではないか?」
 ユーリアが艶っぽく笑みを浮かべる。
「ん?貴様の良く回る舌もそちらはできぬか」
「お生憎ですが稼業の間はそのような――」
 慣れ親しんだ音とともに世界が軽く揺れた。
「砲撃‥‥味方の将兵も配置して――」
いや、包囲された時点で見捨てたのか。畜生!謀反そのものを”消し飛ばす”気か!
「殿下こちらに!」
 メレンティンが大机によりかかりながら叫んだ。
 杉谷と直卒の兵数名が長椅子を被せようとしている。
「伏せろ!」
 ユーリアは首根っこをつかみ豊久を大机にたたきつけた
 一瞬の静寂後、大天幕は爆風によりなぎ倒された。

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