第四章
[8]前話
「一体」
「おいおい、蛸なんて名前出すんじゃないよ」
「その名前聞きたくもないんだよ」
「あんな柔らかくて食い千切れないものなんか」
「吸盤で張り付いてくるし」
「それに墨も吹いてくるだろ」
「あんな連中大嫌いだよ」
蛸と聞くだけでだ、キジムナー達は忌々し気に言った。
「だからだよ」
「もう名前出さないでくれよ」
「蛸だけはさ」
「どうしても」
「うん、わかったよ」
もう聞けたからとだ、与那嶺は答えた。
「それじゃあね」
「ああ、そこ頼むな」
「もう二度と聞きたくないからな」
「お魚は貰って有り難いけれどな」
「他のこと聞いてくれよ」
「いや、もう聞けたから」
与那嶺はキジムナー達に微笑んで答えた。
「いいよ」
「あれっ、いいのかよ」
「おいら達何か言ったか?」
「言ってないよな」
「別にな」
「僕は聞いたから」
確かにというのだ。
「だからもうね」
「いいんだ」
「理由を話さなくても」
「そうなんだ」
「元々言うつもりなかったけれど」
「うん、じゃあお魚は全部食べてね」
土産のそれはというのだ。
「これでね」
「ああ、もうそれは全部食べたよ」
「この通りね」
「片目と骨以外はね」
「頭は後で吸いものにするしね」
「骨も使ってね」
キジムナー達は与那嶺に答えた。
「美味い魚有り難う」
「そっちがわかったならいいし」
「おいら達も役に立ったんだね」
「お魚位には」
「充分にね、じゃあこれでね」
与那嶺はキジムナー達に微笑んで別れを告げた、そしてだった。
学校で渡真利にどうしてなのかを話した、キジムナー達に直接聞いたというそのことも付け加えたうえで。
その話を聞いて彼は納得した顔で頷いて言った。
「そういうことなんだ」
「うん、先生も知らなかったけれどね」
「噛み切れなくて吸い付いてくるから」
「それで墨を吐くからだよ」
「言われてみれば蛸ってそうだね」
渡真利も頷いた。
「だからだね」
「そういうことだね」
「よくわかったよ、お魚は好きでも蛸は駄目なんだ」
「そういう妖怪だということだね」
与那嶺は生徒にも微笑んでいた、そしてだった。
彼の新たな質問に答えた、その顔はいい意味での教師のそれであった。
キジムナーと蛸 完
2020・5・19
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ