第五章
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大きな岩が崩れ落ちる凄まじい音がした、彼はそれに驚いたがすぐにだった。
祖父が子供の頃自分に話してくれた言葉を思い出して言った。
「これは」
「ああ、間違いないよな」
「イシナゲンショだな」
「間違いないな」
「それだな」
「ということは」
イシナゲンショがあった、それならだった。
「磯女はやっぱり」
「いるな」
「やっぱりいるんだな」
「この海に」
「そうなるよね」
「おい、急げ」
綱元もここで言ってきた。
「俺もこれ聞くのははじめてだけれどな」
「はい、磯女ですね」
「あれは磯女がしたことですね」
「そうですよね」
「そうだ、だからだ」
それでというのだ。
「ここはすぐにだ」
「仕事をやって」
「それで、ですね」
「帰るんですね」
「そうだ、近くにあいつがいるのは間違いない」
その磯女がというのだ。
「だからな」
「ここは、ですね」
「すぐに帰って」
「難儀を避けますね」
「そうするぞ」
こう言ってだった、綱元は裕司達に仕事を急がせてだった。
仕事が終わるとすぐに港に戻った、港に戻ったのは普段より速かった。港に戻ると綱元は裕司達をすぐに神社に連れて行って神主を起こして妖怪の怪異に遭ったので念の為にお祓いしてもらった。
そのうえでそれぞれの家に帰るとだった、その時に。
裕司はもう漁師は引退して家で暮らしている祖父に夜のことを話した、すると祖父は孫に対して言った。
「そうだな、実際にな」
「いるんだね」
「ああ、磯女はな」
「俺も実際に聞くまでは」
「確信が持てなかったな」
「そうだったよ、けれど」
それでもとだ、裕司は祖父に話した。
「この耳で聞いたから」
「信じるな」
「前から信じていたよ」
このことは事実だというのだ。
「けれど」
「確かにはか」
「そうじゃなかったけれど」
それがというのだ。
「変わったよ」
「確かになったな」
「そうなったよ」
こう祖父に答えた。
「本当に」
「そうだな、じゃあこれからはな」
「磯女は確かにいるから」
「本当に気をつけろよ」
「ああ、本当にな」
「全部命あってだからな」
だからだというのだ。
「妖怪に殺されてたまるかだろ」
「そうだよな」
「だったらな」
「気をつけてな」
「それでこれからも漁師の仕事やっていけ」
「そうしていくな」
裕司は祖父の言葉に頷いた、そうしてだった。
以後磯女は間違いなくいると確信しそのうえで漁師の仕事を続けた。夜に海辺に一人では行かず別の港に入った時はともづなは下ろさず寝る時は服の上に三本の苫の茅を置いて寝た。そうして長い間漁師の仕事を続けた。
イシナゲンショ 完
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