第三章
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「その人がコンビニに行った帰りに海の方を見たらな」
「いたんですか」
「それがだろ」
磯女、この妖怪だというのだ。
「多分な、だからな」
「磯女はいますか」
「俺はそう思うな。妖怪とか幽霊とか信じない人もいるけれどな」
「いますか」
「いるだろ、だから昔から俺達も気をつけてるんだよ」
「この辺りの漁師は」
「皆な、誰だって死にたくないからな」
「血を吸われて」
「だからな、それでだよ」
「今もともづなを下ろさなくて」
「それでな」
そのうえでというのだ。
「寝る時に苫の茅忘れるならよ」
「三本ですね」
「服の上に乗せて寝ろよ」
「わかりました」
裕司も頷いた、そうしてだった。
彼は苫の茅を三本服の上に置いて寝た、その日船にいた者は誰も何もなかった。だがそれでもだった。
綱元は船の下を見下ろしながらこう言った。
「いたな」
「いましたか?」
「そんな気配がするな」
こう船の者達に言った。
「どうもな」
「そうですか」
「あいつがいましたか」
「そうですか」
「姿は見えないがな」
それでもというのだ。
「感じる、俺は幽霊とかを感じる方だが」
「妖怪もですか」
「感じますか」
「ああ、それでな」
綱元は漁師達にさらに話した。
「ともづなは下ろさなくてよかった」
「見ればどの船も下ろしてないですね」
「俺達の船だけじゃなくて外から来た船は全部ですね」
「わかってるってことですね」
「つまりは」
「ああ、若しそんなものいるかって言ってな」
そのうえでというのだ。
「ともづな下ろして苫を服の上に置かなかった馬鹿はな」
「死んでますね」
「そうしてますね」
「二十年位前大阪から馬鹿が来た」
綱元はこうも言った。
「テロやっても権力に反対するのならいいとか言ってた奴だったが」
「この話も信じないで、ですか」
「それで、ですか」
「ともづな下ろせとか言って周りにぶん殴られて苫の茅を服の上に三本置かずに寝てな」
そうしてというのだ。
「妖怪なんかいるかとか言ってな」
「血を吸われましたか」
「そうなりましたか」
「次の日の朝真っ青になって死んでいたらしいな」
そうなっていたというのだ。
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