第三章
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「イクチは別に船は襲わないがな」
「それでもか」
「船を見付けるとその上を通り過ぎる癖があるんだ」
「そんな妖怪か」
「そしてその身体からだ」
イクチのそこからだというのだ。
「油が絶え間なく滴り落ちてくるんだ」
「そういえば」
ここで二郎は周りを見た、するとだった。
油が実際にイクチの身体からどんどん落ちてきている、そして。
船の上に逆さに開いた傘の上に落ちている、彼はそれを見てわかった。
「そうか、傘は」
「ああ、イクチの油を受ける為だ」
兄は弟に話した。
「だから持って来たんだ」
「そうだったんだな」
「そしてな」
兄はさらに話した。
「傘の油が満たんになったらな」
「その時はか」
「海に捨てろ」
そうしろというのだ。
「いいな、次から次にな」
「そうしないと船が落ちるからか」
「ああ、いいな。夜もだ」
今は昼だがそれでもというのだ。
「そうするからな」
「大変な奴なんだな」
「仕方ない、相手は妖怪だ」
こう言ってそうしてだった。
兄弟だけでなく船にいる全ての者が傘で油を受けて傘が油で満ちるとその油を海に捨ててまた受けることを繰り返した。
それは昼も行なわれ。
夜もだ、灯りを点けてするのだった。
交代で休みもしつつ何日もした、そしてやっとだった。
イクチはいなくなった、それで二郎は疲れきった顔で言った。
「三日三晩かかったな」
「ああ、これがな」
「イクチなんだな」
「そうだ、どうして傘を多く持って行ったかわかったな」
「よくな、しかしな」
「しかし。何だ」
「よくこんな奴がいるな」
二郎は兄に言った。
「世の中には」
「ああ、妖怪もな」
「いてか」
「こんな奴もいるんだ」
太郎は二郎に話した。
「他にも色々いるからな」
「だからか」
「注意しろよ」
「くれぐれもか」
「そうだ、おい達の仕事の場は海だが」
「海でもか」
「イクチもいてな」
そしてというのだ。
「他にもいるからな」
「だからか」
「注意しろ、海にいるのは魚だけじゃない」
「妖怪もいるんだな」
「津波や嵐も怖いがな」
「妖怪も怖いか」
「そうだ、よく覚えておけ」
見れば太郎も疲れきっている、そのうえでの言葉だ。
「さもないと死ぬぞ」
「わかった、じゃあこれからもな」
「海で暮らすならな」
「暮らしていけ」
こう言ってだ、そしてだった。
太郎は他の船にいる者達と共に後始末をした、油だらけになった船の上はしっかりと洗いそして傘も収めた。それから漁に戻ったが皆疲れきっていた。
そして船が港に戻ってだ、二郎は太郎に言った。
「またあそこに行く時は、だよな」
「ああ、傘を持って行くぞ」
「イクチが出て来た時に
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