第一章
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イクチ
江戸時代中頃の話である。
はじめて漁師の船に乗ってだった。
二郎は首を傾げさせた、それで兄の太郎に尋ねた。
「兄ちゃんどうしてあんなの積むんだ?」
「どうした?」
「どうしたもこうしたもないだろ」
それを見つつ太い眉が目立つ兄に言った、兄の髪の毛は黒々としていてしかも硬い。体格はよく精悍な身体つきでまだ子供と言っていい二郎より随分大きな感じだ。ただ着ている服は二人共漁師のものだ。
「何で傘なんか積むんだ」
「今行く海に出て来るからだよ」
「出て来るって何がだよ」
「イクチだよ」
兄は弟に答えた。
「それが出て来る海だからな」
「イクチ?」
そう聞いてだ、二郎は首を傾げさせて言った。
「何だそれ」
「妖怪だよ」
兄はまた弟に答えた。
「魚のな」
「魚のか」
「ああ、鰻か何かみたいなな」
「鰻なら怖くないだろ」
鰻が好きな二郎はすぐにこう返した。
「別に」
「美味いからか」
「ああ、そんなの蒲焼にして食えばいいだろ」
それならというのだ。
「鰻ならな」
「だから妖怪だぞ」
兄は他の漁師達と共に船に漁の道具を積み込みつつ仕事をしている弟に対して言った。弟もよく働いている。
「そうそうな」
「蒲焼に出来ないか」
「それが出来たらとっくにしてるんだよ」
こっちもという返事だった。
「だからな」
「この漁だとか」
「傘も積むんだよ」
そうするというのだ。
「いいな」
「そうなんだな」
「ああ、じゃあお前も傘を積め」
弟に促した。
「いいな、傘がないとおい達は死ぬぞ」
「死ぬのか」
「ああ、船が沈んでな」
「一体どんな妖怪なんだ」
「それが行けばわかる」
その海にというのだ、こう話してだった。
太郎は二郎にも船に傘を積ませた、船に荷物を全部積むと網元が出ると言って実際に船は港を出た。そうして。
船は海の中を進みある場所に来た、そのうえで。
漁を続けると魚はどんどん獲れた二郎はその獲れ方を見て兄に尋ねた。
「多いか?」
「ここはこれだけ獲れて普通だ」
太郎は網にかかった魚を籠に入れつつ弟に話した。
「多く獲れるんだ、だからな」
「ここに来たんだな」
「危なくもあるけれどな」
「その妖怪が出るからか」
「ああ、そうだ」
その通りだというのだ。
「だからな」
「それでか」
「用心はしろよ」
「そうなんだな」
「そう、そしてな」
「そして?」
「何か出て来たら言え」
兄は弟に真剣な顔で言った。
「いいな」
「何かか」
「ああ、やけにでかい細長いのが見えたらだ」
「鰻みたいなのか」
「鰻みたいだがあんなものじゃねえ」
兄は自分の仕事を手伝う弟に話した、見れ
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