第一章
[2]次話
野槌の生
平安時代中頃の話である、今の年代で言うと九〇〇年頃のことであろうか。比叡山延暦寺に二人の僧侶がいた。仮に二人の法名を青空と陸山とする。
二人は親しくそれでこんな話をしていた。
「若し一方がこの世を去ればな」
「その時はであるな」
「うむい、生きている方の夢に出て」
「そして何処にいるか話そう」
「六界の何処にかとな」
「そうしようぞ」
こう話していた。
「是非な」
「人は死ねばどうなるか」
「それも確かめたい故にな」
「そうしようぞ」
「しかし」
ここでだった、ふと。
青空は陸山にこんなことも言った。
「拙僧が思うが」
「どうしたのだ」
「貴殿はわからないが」
どうかという顔でだ、陸山に言うのだった。男らしく眉の濃い顔で青白くひょろりとした風の陸山と正反対の顔だ。
「拙僧の仏法はな」
「それはか」
「どうかとな」
自分で言うのだった。
「思っている」
「常に言っているな」
「仏門はどういったものかわかっている」
頭ではとだ、青空は述べた。
「拙僧もな、しかしな」
「それでもか」
「拙僧は欲が深い」
青空は自分でこのことを言った。
「出家したというのに」
「それもいつも言っているな」
「事実であるからな、出家したというのに」
俗世から離れたがというのだ。
「しかしじゃ」
「それでもだな」
「うむ、名誉と利得ばかりな」
「その二つとか」
「常に頭に置いておってな」
それでというのだ。
「どうしてもじゃ」
「そこから離れられぬか」
「こうした仏門の学び方をしていれば」
深い悔恨と共にだった、青空は陸山に話した。
「拙僧はこの世の後はな」
「よき世には生まれぬか」
「拙僧の行いは畜生の如き、ならばな」
「畜生に生まれるとか」
「思っておる」
「それを言うと拙僧もな」
陸山は陸山で青空に話した。
「やはり正しき仏法の学び方はな」
「しておらなかったか」
「折角比叡山に入ったが」
出家してそうなったがというのだ。
「しかしじゃ」
「それでもというのじゃな」
「やはりこの世の名誉と利得ばかりな」
「追ってしまったか」
「仏門はそうしたものではないというのに」
陸山もまた述べた。
「どうしてもな」
「この世を去ればか」
「人に生まれ変わるとは思えぬ」
「お互いそうじゃな」
「出家しても正しき仏法を学ばねばな」
「やはり駄目であるな」
こうした話もした、そしてだった。
やがて青空の方が先にこの世を去った、比叡山の者達は彼を高徳の僧侶として送った、勿論送った者の中には陸山もいた。
そうしてだ、比叡山の僧侶達は世を去った青空のことを口々に話した。
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