第1部
アッサラーム〜イシス
偏屈な客
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「この家に入らないの?」
「ここは臭いがすごいから誰も住んでないよ。普段ヴェスパーさんは、この奥の祠で生活してるんだ」
祠? 祠でどうやって生活してるんだろう? ますますヴェスパーさんが何者なのかわからなくなってきた。
とにかくこの家には誰もいないらしい。遠い昔は誰かが住んでいたのかもしれないが、よく見れば壁のあちこちに亀裂が入っており、長い時間かけて劣化していったのがわかる。
祠と一軒だけぽつんとある家。きっとそこは昔、何かを奉っていたのだろう。そしてそれを守る神官だかが住んでいた。もはや推測でしか図れないが、魔王が復活する前はこんな辺鄙な場所でも生活できるくらい平和だったのかもしれない。私はやりきれない思いでそれを見ながら、少し歩いたところにある小さな祠へと向かった。
祠に近づくと、私たちの気配に気づいたのか、人影が動くのが見えた。その男性は姿かたちだけ見れば初老に見えるが、髪の毛はボサボサで、全身埃まみれの状態でじっと立っており、実年齢は定かではない。
彼はルカと私たちを交互に見たあと、再び祠の中に引っ込んでしまった。
「噂通り、かなりかわったおっさんみたいだな」
ナギが小声で誰にともなく呟いた。まあでも、ヴェスパーさんの立場からすれば、いきなり見知らぬ人間が何人も目の前にやってきたのだ。そりゃあ多少警戒はするだろう。
「あのー、突然大勢で伺ってすいません! 私たち、魔王を倒すために旅をしている者なんですけど、ちょっとお話させてもらってもいいですか?」
なるべく刺激しないように、下手に出ながら彼との接触を図ってみる。私が声をかけると、今度は目だけ出してこちらをじーっと伺っている。なんだか野生の獣のようだ。
「ヴェスパーさん。今日はあなたが欲しがってたものすごく珍しいものをたくさん用意してきたんですよ。ほら、これなんかどうです?」
もともと彼と商売の交渉をしに来たルカが、素早く鞄の中から何かの本を取り出した。この間ドリスさんが言っていたものだろうか。
「見てください、その名も『ユーモアの本』! これを読めば大爆笑間違いなし! さらに性格が『お調子者』になり、ギャグのセンスもピカイチになり、皆の視線を一人占めできますよ!」
「……わし人のいるところ行かないし、別に必要ない」
ルカの熱弁もむなしく、ヴェスパーさんはきっぱりと断った。
「もちろん、一人でいるときもこの本を読めばいい気分転換になりますよ! あ、あとこの『金のネックレス』なんかどうです?」
それに負けじと、ルカは次々に鞄の中からアイテムを出して紹介するが、ヴェスパーさんの購買意欲が変わることはないかった。それどころか、徐々に不機嫌
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