第1部
アッサラーム〜イシス
偏屈な客
[1/8]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「や、やっと着いた……!」
火炎ムカデと対峙してから三時間。ようやく私たちは、魔法の鍵の情報を知っていると言われるヴェスパーさんの住んでいる家に辿り着いた。
幸いにもあれ以降ムカデは現れなかったが、他の魔物とは何匹か遭遇した。
おばけきのこや人喰い蛾はどうにかなったが、地獄のハサミというカニの姿をした魔物と同時にこられると厄介だった。なにしろそのカニは自身の防御力も高いが、複数に効果のある防御系呪文のスクルトを唱えてくるのだ。最初にそれを唱えさせてしまい苦戦したが、次に現れたときはユウリがすぐさまベギラマを唱え、魔物を一網打尽にしてくれたおかげで、なんとか無事に進むことができたのだった。
一方、戦闘面で意外な力を発揮したのはルカだった。武器の扱い方は年齢や経験の差もありほぼ素人同然なのだが、身のこなしが軽く、体も小さいため敵の攻撃が当たることはほとんどなかった。
あとで聞いたら、毎日ドリスさんの知り合いの武闘家と戦闘の修行をさせてもらってるという。もっぱら攻撃を避けることしか出来ていないが、それだけでも十分成長している。実家にいたころの彼は遊ぶことしかしていなかったはずだったから、よくここまでがんばってきたと思う。
ふと気づくと、早朝に町を出立したにも関わらず、すでにお昼を回っていた。携帯食料は持ち歩いているが、食事は後回しにし、先にヴェスパーさんのところに行くことにした。
ここから少し離れたところに小高い丘陵があり、あちこちに岩や石くれが転がっている。その丘陵の頂上に、ポツンと小さな家が建っていた。
家といっても、普通の木造家屋ではなく、大きくて固そうな石を煉瓦のように積み重ねたような家だ。ルカが言うには、ここイシス地方ではこういう家は珍しくないという。暑さだけではなく、他の地域に比べて竜巻などの発生も多いため、簡単には壊れない造りにしてあるのだそうだ。
早速訪ねようと丘を登り、家のそばまで近づいてみるが、なぜか家の周りには動物の死骸やら鳥のフンやらが散乱している。
「ねえルカ。本当にここに人が住んでるの?」
「うん。あの人大の人嫌いでさ、わざわざ人が立ち入らないような場所を選んでんだ。ずっと一人で住んでるみたい」
ルカは平然とした顔で答えると、入り口から少し離れたところまで歩いて立ち止まる。
「ここなら人一人くらい通れます。オレがいつも使ってる道だから安心して下さい」
そう言いながら、腐敗した地面の合間から見える砂地に足を踏み入れる。刺激臭はするが、我慢できないほどではない。私たちはルカのあとに続いていった。
そして、てっきり入り口に向かうのかと思いきや、ルカは家を通りすぎ、奥の方へと進んでいくではないか。
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ