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渦巻く滄海 紅き空 【下】
三十七 『  』
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助けになるのだから。

戦争孤児となり、記憶喪失となった己を助けてくれたノノウは、穏やかで優しい孤児院のマザー。
だが彼女は、その実、かつて『歩きの巫女』という異名で知られる木ノ葉の“根”の諜報部一の暗部であった。

“根”の長であるダンゾウはノノウに岩隠れの里への長期任務を要請し、断れば今後、孤児院に援助金を入れず、更には院に忍び込んで金どころか子どもを盗むと暗に告げられる。
ダンゾウの傍らにいた長い黒髪の男が蛇のような眼差しで、逡巡するノノウを舐めるように眺めているのを、幼きカブトは窓の隙間から覗き見ていた。

あの男を知っていた。
蛇のような男は、以前、ノノウに教わった医療忍術でカブト自身が手当てした張本人だった。

まさか“根”に属しており、こうして再会するとは思ってもみなかったが、とノノウからもらった眼鏡の奥でカブトは眼を細める。
窓の隙間から、会話を盗み聞きしていたカブトは「孤児院の子どもをひとり、“根”に差し出せ」と更に要請してくるダンゾウに思案顔を浮かべた。
外した眼鏡を、じっと見る。


どうせ、この身は何も無い。
与えられたカブトという名とこの眼鏡。


記憶を失った身よりのない自分の居場所になってくれたノノウの、そして孤児院を守る為に、カブトは唇をきつく噛み締める。
その瞳には既に決意の色が濃く宿っていた。



自ら“根”に立候補したカブトの人生はそれから目まぐるしく変わった。
当時、まだ9歳ほどであった彼は“根”のスパイとして五大国を渡り歩き、諜報の才能を発揮してゆく。


五大国の内、水の国に潜伏していたカブトは霧隠れの忍びとして、濃い霧の中、木陰に潜む。

当時、“血霧の里”と呼ばれていた危険な里に潜入捜査していたカブトは、視線の先にいる要注意人物に眉を顰めた。

(あれが…霧隠れの鬼人────桃地再不斬か)

忍者学校卒業試験で同級生の皆殺しという凶行を仕出かし、その時から頭角を現していた鬼人・再不斬。
なるほど遠目から見てもわかる。アレは並みの忍びではない。

口を包帯で覆っていながらも、覆い隠せない再不斬の残忍な表情を濃霧の中で認め、カブトは身震いした。
命が惜しければ彼には近づかないほうが身の為だな、と判断したところで、肩を叩かれる。

反射的に振り返ったカブトは、いつの間にか自分の背後にいた人物に顔を青褪めた。


霧隠れには、尊敬と畏怖を込めてその称号を贈られる実力者がいる。
霧隠れの里に存在する特殊な能力を宿す七本の忍刀を使いこなす忍び。
他国の忍びにも知れ渡っているその名は、“忍刀七人衆”。

その内のひとりである無梨甚八、その人に背後を取られたと知り、カブトは愕然とする。
よもやスパイだとバレたか、と戦々恐々とする
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