第四章
[8]前話
「これまであたしには誰も近寄らなかったってのに」
「昔はな」
夫も言う、二人で一匹ずつリードを持っている。そのうえで街を散歩しているのだ。
「俺位だって言ったな」
「あんまりにも口煩いからだね」
「しょっちゅう怒ってたからな」
そんな風だったからだというのだ。
「誰も近寄らなくて当然だよ」
「自分でもわかってたけれどね」
「けれど今はな」
「ソラが来てからだね」
「怒らなくなってすっかり穏やかになったからな」
だからだというのだ。
「それどころか親切で世話を焼く様になったからな」
「皆近寄ってくれる様になったんだね」
「そうさ、声をかけてな」
その様にしてというのだ。
「子供や孫達も来る様になったんだよ」
「そうなのね」
「皆怖い人には近寄らないだろ」
「それで穏やかな人に近付くんだね」
「そうだよ」
まさにというのだ。
「だからな」
「それでなんだね」
「今はお前の周りに人が集まってるんだよ」
「成程ね」
「俺だって今のお前の方がずっといいしな」
「そうなんだね」
「人間穏やかに限るさ」
それこそというのだ。
「本当にな」
「じゃあソラとこの子達のお陰だね」
妻は夫の話を聞いて述べた。
「全部」
「そうだね、じゃあね」
「それならだな」
「これからもこの子達と一緒にいてね」
犬達を見て夫に話した。
「優しい気持ちになっていくよ」
「それがいいな」
「あたし自身にもいいみたいだしね」
「周りもよくてな」
「そうしていくよ」
「じゃあ家に帰ったらな」
「まずこの子達にご飯あげるか」
夫は犬達を見つつ妻に話した。
「そうするか」
「それがいいね」
「ワン」
「ワン」
二匹は二人の言葉を聞いて笑顔になった、そしてだった。
尻尾をぱたぱたと振った、康子はそんな彼等を見て微笑み。
家に帰って彼等のご飯をあげると今度は家の中でソラとミケ室内飼いをして首には鈴のある首輪を付けている彼女達に声をかけた。
「今度はあんた達のご飯だよ」
「ニャア〜〜」
「ニャンニャン」
二匹はすぐに康子のところに来た、その二匹を見る彼女の笑顔はとても優しいものだった。夫はその彼女を見てソラ達が家に来て本当によかったと思った。
偏屈婆さんと猫 完
２０２０・６・２１
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