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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十三話 旧友、二人 (下)
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も渡された銃を持つ手はとても丁寧だった。
持ち主にとって思い入れがあることに代わりがないことは理解しているのだろう。
「酷いな。確かに五年物だけど特注品だ、そこらの短銃の倍以上はするぞ。
それに手入れは怠っていないから新品同様だ。――使い方は分かっているな?」

「皇都に戻って早々に貴様の試射につき合されたからな。」
減らず口を叩きながらも渡した意味を理解しているのだろう、僅かに手が震えている。
 ――この男、存外に小心なのだ。
「ならば良い。それは貸しているだけだからな。必ず返せよ」

「努力する。なにしろ高級品を預かっているわけだからな、我が新城家の家名に関わる問題だ」
壊れ物を扱うかのように恭しく短銃をしまう新城に豊久はにやりと笑う。
 ――変なところで拗ねる奴だ。
「勿論、貸した相手も壊われないように祈っているよ、一人っきりの新城家が存続の危機だからな。
それでは駒州公爵家御育預 新城朝臣直衛殿、御気をつけてお帰りくださいませ」
新城に慇懃に貴人への礼をする。当然ながら新城が嫌がるのは百も承知の上であった。
 視線を交わし、互いに にやりと笑う。
「あぁそうだ。言い忘れていたが貴様と今度顔を突き合わせる時には答え合わせになるだろうな。
大殿と殿下が貴様に会いたがっているそうだ」
「――最後の最後に怖いことを言わないでくれ」
頬に冷や汗を伝わせたホスト役の背中をどやすと、新城は馬堂の用意した馬車に乗り込み、去ってゆく。
 それを見送ると、豊久は背後にそっとあらわれた警護班長に尋ねる
「行ったか――山崎、見つけたか?」
 屋敷の警備を取り纏めている山崎が近寄ってきた。
「はい、御育預殿がいらっしゃってから探りましたが十五名程、屋敷の周辺に張り付いております」
 ――さすが元憲兵、良い仕事をしてくれる。
「そんなに動いたか、大層な事だ。そいつらの所属は分かるか?」

「いえ、申し訳ありませんが流石にそこまでは。
ですが魔導院では無いと思います。連中でしたらもっと上手くやる筈です」
「ならば将家の手の者か、さてさて、守原か、安東か、西原か、――それとも、宮野木、か」
 ――あの狒々爺が相手だとしたら面倒極まりない。思い出すだけでうんざりする。
「何人か育預殿について行ったか?」
 豊久の問いかけに山崎は頭を振る。
「いえ、未だ全員がこの屋敷の周りにおります。
育預殿にも、殿達にも付いていかなかった様です。豊久様のみが狙いかと」
 山崎の口調は慇懃な使用人のままだが振る舞いは軍人その物に戻っている。それは豊久も同様であった。
「万一忍び込む様なら俺と御祖父様で話を聞く(・・・・)
外で大人しくしているのならば手出しはするなよ。深追いも禁物だ」
 口ぶりは穏健だが、その目は情報将校
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