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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十三話 旧友、二人 (下)
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あっても、か。〈皇国〉の刻時計は踏み壊された、と評する人もいたな。」
新城が溜息を漏らす。
 ――既得権益の奪還と意地の為に無謀な総反攻を求める愚か者達、俺はこの亡びかけの国に愛国心など持っていない。この目の前の男はどうなのだろう。

「俺は単に一巡しただけだと思う。
財貨の不均衡が戦乱を招いただけだ、不平貴族の反乱や匪賊ともそうした意味では変わらない。規模がまた拡大しただけさ」
 ――富が膨らめば欲も膨らむ。そして富が離れたら権力を振るい、掻き集めようとする。守原達を見れば良く分かる。成程、世に無意味な戦は無くならない。
 それをこの男はどう語るのか、少し興味が湧いた新城は合いの手をいれた
「金の恨み、か。貿易赤字による正貨の流出が〈帝国〉出兵の切欠だったか?」
 新城の意図を理解したのか、豊久も仰々しい身振りで補足をする
「そしてそれによる反乱の爆発的な増加だな。
馬鹿馬鹿しい。貴族にべったりの大商人が穀物を売り惜しみしたのが原因だ。
ふん、自分達で反乱を煽った様な物だ。無能だ、無能。だから大国の癖に戦争なんぞしているんだ、馬鹿らしい」
 〈帝国〉そのものを嘲笑うかのように哄笑する。
「馬鹿らしい原因だろう?
おまけに〈皇国〉経済の強みは流通だ、占領しても〈帝国〉と比較したら大量の回船と熱水機関の技術程度しか旨みはない。穀倉地帯としては(帝国)南部の方が優れているよ。
熱水機関を積極利用すると〈帝国〉本土の能率が悪い農奴を利用した鉱工業が潰れる。
そして回船問屋が発達したのは即時性の高い導術のお陰だ。
滅魔亡導なぞもう昔話でしか無い〈皇国〉経済を反導術の教義を奉じ、交易相手を蛮族と呼び、情報伝達手段すら知らない輩が活用出来るか?
〈帝国〉の問題は、農奴制なんて非効率な制度だ、勝ったところで肝心の問題は何も解決されない」
〈皇国〉は亡国の淵に追い込まれた。――それをこの男は無意味だと嘲笑している。
「〈皇国〉とて早々に虎城山地を盾にすれば長期戦に持ち込める。
元々東方辺境領は戦続きで財政は本土頼りだ、〈帝国〉は確実に財政が逼迫するよ。
更に西方諸侯領も南冥、アスローン両国を相手の紛争が慢性的に続いている。
其方にも金を出さなくては諸侯内で反乱だ。〈帝国〉は勝っても負けても命数は長くない。
その経済・政治の構造を変えない限り、必ず財政が破綻して内乱になる。国が割れるのは時間の問題だ」
話の内容に反し、豊久は不機嫌な唸り声を上げる。
  ――そう、問題は――
「それまでこの国が持てば良いが〈帝国〉も意地があるだろう。」
 ――『その時』まで〈皇国〉が国の体裁を守っていられるか、ということだ。

「そうだろうね。あちらさん、常勝故に矜持も高い。ユーリア姫殿下に似たような事を言ってみたら追い出された」

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