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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第二十三話 旧友、二人 (下)
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意識を払拭させたいのだろう。
――殿下御自身が前線に出ることはもう不可能だ。さすがにもう五将家が総力を挙げて止めるだろうし。そうなると第五旅団に附けられるか――」
「衆兵隊にもう剣虎兵部隊が一個大隊、そういうこともあると?」
 新城の言葉に豊久も頷く。
「有りうるな――だとしたら相当力を入れる筈だ。ひょっとしたらもう準備を始めているかもな」

「そうなると新編の大隊か。面倒だが少なくとも大隊を貰えるのは悪くない」と新城は鼻をこする。

「近衛衆兵に剣虎兵は居ない以上、陸軍からも古兵を引き抜く準備をしているだろう。
最悪、剣虎兵学校から教官を引き抜くかもしれないね」

「まさか、そこまでするか?」
 剣虎兵学校勤務の経験者である新城はその内実を知っていた、剣虎兵の層は他の兵科のように厚くはない。

「あくまで極論さ。殿下は馬鹿じゃない、後備も居ない新兵科の養成所にはそうそう手を出さないだろうが――有り得ない話じゃない。俺が言いたいのはもしそうであった場合は、殿下が威光を振るうだろうって事だ――皇族が、お前の為に、な」
 一瞬、豊久の目に剣呑な光が閃いた。
「ま、向こうが利用している間は、お前さんは殿下の庇護の下だ。当面は安心しておけ」
 打って変わり、そう言った時には温和な笑みを若番頭が店先で浮かべている様な人当たりの良い顔に浮かべている。こうしていると陸軍野戦銃兵章まで授与された――つまり将校が自ら鋭剣を振るう死地から生還した軍人には見えない。

「あくまでも当面は、か」

「駒城と皇家は永遠の主従ではあっても永遠の忠臣ではない。それは利害の一致している間だけだ」
豊久は細巻に火を着ける。
「――皇家は常に天秤の揺らぎを気にする。生き延びる為にはそうするしかないからね」
だが、咥えようとはせず、煙が漂うのを眺めながら呟く。
「駒城と馬堂も、か」
 新城の言葉に細巻の煙が揺らぐ。

「――駒城あっての馬堂だよ。大殿様も若殿様も良くしてくれているし、御二方とも駒州公に相応しい御方だと俺は思っている。若殿さまにだって御恩は大いにある、俺は俺なりに忠義を抱いているさ。
ただ|我々(ばどう)を切り捨ててまで――となったら話は別だがね」
 内容に反し、その声には何の感情も窺えない。視線は刻一刻と形を変えながら天へと上る煙を追っている。
「――義兄上には良くも悪くもそれは出来ない」
 新城が危惧する善人故の欠点であった、苦悩して苦悩してそれでも切り捨てられず、心中しかねないと新城は考えている。
「どうかな?内では政争、外からはあの姫様が着々と内地侵攻の準備中、まさしく亡国の危機だ。何があってもおかしくない。――この世には不思議ではないものなど何もなし、さ」
露悪的な口調で豊久は頬を歪ませる。

「何が
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